零の旋律 | ナノ

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「あーるじ、起きて下さい―!」

 アークの眼前でリアトリスが声をかけるとパチリ、と目を覚ました。

「交代の時間か」
「ですー。では私とジギタリスは寝るんで、ヴィオラと宜しくです」
「はいよ」

 アークはヴィオラを起こすと暫くまだ寝たいと身じろぎしていたが、やがて不機嫌そうに眉を顰めながら目を開けた。

「寝たりねぇよ……」

 ヴィオラは悪態をつく。此処最近目まぐるしく状況が動いているせいで睡眠も足りないし、身体も疲れも取れない。四時間程度、しかも野宿となれば満足な睡眠時間とは到底言えない。

「そうか?」
「三日三晩働けるアンタと一緒にすんじゃねぇよ」
「いや俺、三日三晩動いたら倒れるけど」
「そういう問題じゃないっての」

 ヴィオラは立ちあがりストレッチを始めた。寝心地が悪い場所で寝ていたから身体が凝っていた。

「金平糖食べてぇ……」
「金平糖? 何、ヴィオラって甘いものが好きだったのか」
「癒しだ」
「ふーん。俺は強い奴と戦いたい」
「とりあえず却下」
「えー、なんでだ」
「状況によっては戦闘もいたしかたないけど、こっちの戦力は少ないんだ、必要ないところで戦って体力を消耗するわけにはいかないだろ。だから、とりあえずは却下、だ」
「はいはい、従いますよ」
「……そういや魔族+俺らとカサネが依頼主になるんだっけか?」

 今さらながら、始末屋に誰が依頼したかを思い出す。魔族、それにヴィオラやシャーロア。そして重ねてカサネ・アザレアが依頼主ということになるのだろう。
 この場合優先順位が誰になるのかが不明瞭だが、最初に依頼内容を告げている以上、依頼主の優先順位がはっきりとしていなくても問題はあるまい。何より、カサネ・アザレアは別として、魔族とレス一族の見解が相違することはない。

「そうなるな。まぁカサネは状況が一緒だったから特例みたいなものだ。あ、ヴィオラ、寝たいなら寝てもいいぞ?」
「は? いやいいよ。他の面々が起きていたのに俺だけ寝るわけにはいかないだろ」
「リアやジギタリスは俺と同類だ。ホクシアも疲れてはいるだろうけど、まぁその辺は次の日にでも寝むければ寝てもらえばいいだろう。流石にリーシェ一人にするわけにはいかないからな。リーシェは……まぁいいか」
「王子の扱い酷いだろ。荷物持ちにさせたりとかさ。まぁリーシェが王子に見えないのが悪いんだろうけどよ」
「リーシェが俺と戦ってくれるなら寝かせてやる」
「それ別の意味で“永眠”出来そうだよな……つーか、この場で戦ってもアークが勝つだけだろ」
「ははは。まぁ万全じゃないリーシェと戦っても面白くない、だけだしな」
「だろうよ。流石戦闘狂」
「褒められた」
「褒めてねぇ。で、俺は起きているよ。二人で二時間、そういうルールだ。俺だけ特別扱いしてもらわなくて構わない」
「なら、起きてられなくなったら寝ればいい」
「始末屋の腕前は信用していますから、どうにもならない時はそうさせてもらうよ」

 頭上を見上げる。日差しは登らない。
 分厚い雲に覆われた空は日差しが昇ることを拒んでいるようだ。
 
 時間経過すら時計をしていなければ狂わされるような、世界。


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