零の旋律 | ナノ

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 二時間は短いようで早い。人の気配がすることもなく過ぎて行った。

「さて、交代の時間か、リアトリスとジギタリスを起こしてくる」
「わかったわ」

 シェーリオルが忍び足ではなかったが、けれど地鳴りがしたわけでもないのに近づくとリアトリスとジギタリスは身動ぎもせずほぼ同時に目を開けた。

「起きていたのか?」

 やや驚きながら問う。

「いや、寝ていた。人の気配を感じたから起きたまでだ」
「ですー」
「どんな睡眠だよそれ……疲れるだろ。普通に寝てろよ。俺やホクシアが見張ってんだから」
「お前たちのことを心配してではない。ただ、習性だ。気にするな」
「……そうか、じゃあ俺とホクシアは寝るから頼んだぞ」
「承知した」
「了解です―」

 ジギタリスとリアトリスはたき火へ近づき、ホクシアとシェーリオルはその場から離れて睡眠をとる。異世界で隣には始末屋やそのほか物騒な人物の祭りでも緊張はしていたのだろう、横他悪とシェーリオルはすぐに寝息を立て始めた。程なくしてホクシアも眠りについた。
 寝たのを確認したリアトリスは、ジギタリスへ好奇心旺盛に質問をした。

「ヒースの小さい頃ってどんなんだったんですかー?」
「最初に話す言葉はそれか?」
「駄目です? だって気になるじゃないですか! あの見てくれだけはいいのに性格最悪なヒースの幼少期ですよ? 聞けるのはジギタリスしかいないじゃないですかー!」
「……それはそうだが。まぁ今のように偽りの丁寧な言葉は使っていなくて素の口調のままだったな、まぁ……今よりかは可愛げはあったが」
「可愛げがあるヒースって想像出来ないですね」
「それはほら、見てくれはいいからな」
「ぷっ、あははは!」
「周りからみると誘拐したくなるくらい可愛かったらしいぞ。実の弟相手に私はそんなことを思ったことはないのだがな」
「いや、思ったら駄目だと思いますよー。それにしても誘拐したいくらい可愛かったなんて、何処で教育間違えたんです?」

 ジギタリスとヒースリアが姉弟であることは裏社会に精通している人ならば誰しも知っていることであった。
 そもそも“無音の殺し屋”の呼び名がロアハイトの血筋が代々受け継ぐ呼び名であり、それを名乗っていた人がいる時点で、彼らが家族であることは紛れもない事実となるのだ。

「私ではないぞ」
「そうなんです? ジギタリスも別に性格いいわけじゃないですしー姉の影響を受けたのかもしれないですよー」
「お前には言われたくないな」
「そうですー? 私の性格はいい方ですよ!」
「……今のヒースリアが形成されたのはお前のせいな気がしたぞ」
「気のせいですよ―。二歩譲ってそうであったとしても、本性は変わってないですしねー」
「……そういうことにしておこう」
「何やら呆れられた気配がしますですよー」
「呆れられることしか言っていないだろうが、全く」
「酷いですー」

 頬を膨らませて抗議するリアトリスにジギタリスは何も言わなかった。
 リアトリスが質問をしてジギタリスが答える、という会話が止むことなく続き二時間が経過した。


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