零の旋律 | ナノ

\


「全員寝るわけにはいかないだろ? 二人ひと組で交代制にするか?」

 シェーリオルの申し出に全員が同意したため、じゃんけんでチーム分けが決まった。
 最初に起きているのはシェーリオルとホクシア、次にリアトリスとジギタリス、最後にアークとヴィオラの順番だ。

「ではではおやすみなさいです―」

 リアトリスやジギタリス、アークは寝たい時には睡眠をとれる体質なのかすぐに寝付いた。ヴィオラは十分ほど起床していたようだが疲れもあったのだろう寝息が聞こえ始めた。
 ヴィオラが魔術で火を焚いた周りにシェーリオルとホクシアは座る。

「……今なら、俺を殺せるけど殺さないのか?」

 シェーリオルの発言にホクシアは一瞬、何を言っているのか理解できずに瞬きを繰り返す。

「突然どうしたのかしら」
「今の俺なら、ホクシアの刀で容易に殺せるからな」
「……そうね。けれど、私は殺さないわ。貴方達人族は殺したい程に嫌いよ、それでも――この場でこうしている以上、今は“仲間”なのだから。仲間を手にかける道理はないわ」
「そっか」
「まぁ……この場にミルラがいたのなら貴方を殺したでしょうけれどね。彼程人族を嫌っている同胞はいないから。けど――貴方は殺されたかったの? 今までそんな様子は一切ない、向かってくるものは殺す、そんな王子らしくない雰囲気が漂っていたのに」
「いや、殺されたいわけじゃないよ。ただ、ふと思っただけだ」

 その様子が、普段の飄々として真意を掴ませにくい表情とは違っていて、ホクシアは眉を顰める。

「そう。ふと思っただけだ。何せリヴェルア王国の第二王位継承者を殺せるまたとないチャンスなんだからな」
「随分と傲慢ね」

 裏を返せば、普段ならば殺せないと断言しているようなものだった。

「そりゃ、大抵の相手なら返り討ちに出来る自信があるからな」
「なら、レインドフと戦ってきなさい。彼大喜びすると思うけど」
「いや……そりゃ御免だ。好き好んで戦闘狂に挑む馬鹿じゃないよ」
「でしょうね」
「――なぁ、ホクシアは望んでも手に入らないことってあるか?」

 ふと、シェーリオルの表情が神妙になる。

「当たり前よ。貴方達人族が私たちの望んだものを根こそぎ奪っていくのだから」
「まっそうか」
「えぇ。貴方は王子であるのに望んでも手に入らないものがあったの?(……“謝らない”ところは王子らしい、というべきかしら)」
「結局は何処までいっても、隣に並ぶことは叶わないんだなって思っただけさ。どうあがいても報われることも望みを手に入れることも――叶わないって、わかっていたけれど、再度突きつけられると悲しいなぁって」
「……貴方が何を望んでいたのか、私にはわからない。けれど――後悔しているの?」
「後悔はしていないよ。後悔するわけない」
「ならいいじゃないの。辛いかもしれないけれど、それでも後悔するよりかはましだと私は思うわ」
「そうだな。有難うホクシア」
「……何なら肩くらいは貸してあげてもいいわよ」
「はは、有難う」

 理由は不明だが、落ち込んでいる様子のシェーリオルが何故だか放っておけなくてホクシアは気がついたらそんなことを言っていた。すると隣にいたシェーリオルは寄りかかるように僅かに身体をホクシアの方へ傾けてきた。僅かに触れた肩。服越しでも伝わってくる温もり。

「そういやホクシアって何歳なんだ?」
「女性に年齢は聞くものじゃないわ」
「そうだな、レディの年齢は何時だって不思議なものだった」

 シェーリオルがくすりと笑う。整った顔立ちから笑みが浮かべられると、それだけで人を引き付けるような魅力を放っている。
 ヒースリアやジギタリスの顔立ちも整っているが、此方はやや冷たい印象を与えるのに対し、シェーリオルの顔立ちは温かさがあるようだ、ホクシアはそう思う。
 けれど――とホクシアは心を冷たくする。

「(――彼は間違いなく私の仲間を殺している人)」

 シェーリオル・エリト・デルフェニは王子だが、しかし血濡れたことも平然とやるだけの冷酷さを持ち合わせている王子であることをホクシアは知っている。
 何より優れた魔導を扱う魔導師であり、魔導の研究者としてもシェーリオルは有名だ。
 ならばこそ、シェーリオルが魔族を殺していないわけがないのだ。同胞を殺した人を此処から許すことをホクシアは出来ない。
 終わりなき復讐者でいる限り。


- 342 -


[*前] | [次#]

TOP


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -