零の旋律 | ナノ

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 僅かに日が傾き、薄暗い不気味な雰囲気を空模様が作り出した所で、休息を取ることにした。魔術が唯一使えるヴィオラが結界を作り出す。シェーリオルやミルラが作る結界と比べれば脆弱だが、下手な攻撃では結界を壊すことは出来ない。結界の中心に魔法陣を描き、薪がなくとも消えない火をともす。

「まぁ流石に宿は無理だよな」
「王子様は野宿初めてか?」
「当たり前だ」
「まぁ……これで野宿経験まであったら王子辞めた方がいいけどな」

 ヴィオラの言葉にリアトリスが云々と頷いた。

「私としてはの野宿も構わないですけどー街へやっぱ侵入して食料は欲しいところですよねー」

 リアトリスは保存食を頬張る。その姿はリスのようだ、と内心シェーリオルは思う。流石に異世界へ行くのに手ぶらで来たわけではない。食料や必要物資は持ち込んでいる。主な荷物持ちは王子とアーク、それにジギタリスだった。

「ふかふかのベッドがないのは仕方ないですから我慢しますよー、あ、そうだ主」
「何だ?」

 リアトリスが、輪から少し外れて内緒話をするようにアークの耳元へ近づいた。それを疑問に思うわけでもなく、シェーリオルとヴィオラは二人で会話をする。ホクシアは淀んだ空を眺めていた。ジギタリスは騎士団を殺すのに使用した武器の手入れをしていた。

「主って今でも結婚する気あるんです?」
「勿論。なんだ、リアが結婚してくれるのか? いつでも歓迎するけど」
「べっーだ。結婚なんてしないですよー断固拒否します。ってじゃなくて、ですね。最高の物件を見つけたんです。ただ、致命的な欠点があるんですけど」
「誰だ?」
「ジギタリスですよ! 主の仕事中毒にも干渉しないでしょうし、うっかり殺される程弱くもないですし、レインドフに特に興味もなさそうで、外見とかは主興味ないかもしれないですけど、美人ですし胸も大きいんですよ! 最高じゃないですか!」
「確かに! いいなそれ」
「でしょう! でもですね」
「致命的な欠点があるんだっけ、何だそれは? 欠点の一つや二つ」

 気にしないぞ、という言葉を遮ってリアトリスが告げる。

「もれなく、ヒースが義弟になります」

 地面にへこんだ。という光景が相応しいくらいにアークはへこんでいた。

「それは勘弁だ。見逃せない欠点だ……」
「私としても何だか嫌なんですよねー」
「良し。それはなかったことにしよう」
「おい、お前たち。私を勝手に物件扱いした挙句、勝手になかったことにするな」

 二人の会話が聞こえていたジギタリスは流石に口をはさんだ。

「じゃあジギタリスとしてはありなんですー?」
「いや、ない」
「ですよねー。まぁ主を好きになるモノ好きなんていないでしょうから仕方ないですけど―」
「私はそこまでは言わないが……それよりアークが結婚を考えていることは意外だったな」
「是でも主、お見合いとかしているんですよー成功した確率ないですけど」
「……だろうな」

 始末屋がお見合いする光景を想像したのか、ジギタリスの表情が曇った。


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