零の旋律 | ナノ

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「あぁ? あの餓鬼は俺の高貴な額に傷をつけたんだぞ? それを逃がせばお前がどうなるかわかっているんだろうな?」

 高慢な態度で苛立ちを隠さず、軍人は部下にカルミアを捕えるように指示を出そうとするが、カルミアは悠々とした態度で、軍人の掌にあるものを載せる。

「ならば是であの少年は勘弁して頂けるのかしら?」

 軍人の掌に載せられたもの、それは金銭。

「……ほお、これで見逃せと?」
「えぇ、充分すぎる額だと思うわ」

 その金額は決して安くはない。高すぎるくらいだ。

「勘弁してやろうか、しかしこの家は徴収金を払えなかったんだ、妻はその代金代わりとして頂いていくぞ?」
「私が代わりに払いましょう」

 カルミアは懐から財布を取り出し、徴収金額分に賄賂を上乗せして渡す。軍人は満足そうに賄賂の分だけ懐にしまって、残りは徴収金袋に入れる。

「撤退するぞ」

 一言で、そのまま軍人はその場から立ち去る。

「お前!」

 感極まった声で、男性は妻に優しく抱きつく。そこへ少年も駆けだしてきて、三人もう離れ離れになるまいと力強く抱きしめ会う。

「あ、あの……!」

 男性がお礼を言おうとカルミアがいた方を見た時、既にカルミアはその場にいなかった。
 軍人がいなくなった時、少年には両親の元へ戻るように伝えた後、ラディカルとアークは路地裏に移動した。そこにカルミアが現れる。

「何かしら?」
「何故、お前が助けた?」

 アークの疑問。

「あの子が、あの子供が自ら勇気を振り絞って石を投擲したからよ。だから助けたに過ぎないわ、あの少年の勇気を私は評価したからよ」
「成程な、お前は金で解決出来ると最初から踏んでいたのか」
「えぇまぁ。賄賂を積めば何とかなる問題がこの国には沢山あるからね。本当に腐っているわ」
「腐っているとわかっていながら、お前は何故この国に留まっている?」
「そこまでは答える義理はないはずよ? アーク」

 カルミアは釘をさす。それ以上は知る必要も、教える義理もないと。
 ラディカルには二人の会話内容がとても昨日知り合ったばかりの関係には思えなかった。
 友好的な雰囲気をカルミアは放っているが、何処となく踏み込めない見えない壁があるように感じた。
 ――眼帯で全てを覆った自分と同じ。

「まぁそうだな、詳しい詮索は無用か。あぁそうだカルミア」
「何かしら?」
「魔族ってこの辺にいる?」
「お兄さん此処できく!?」

 アークの世間話をするような、何気ない問いに驚いたのは逆にラディカルの方だった。
 一瞬カルミアは瞬きを何度か繰り返す。

「魔族ねぇこの界隈じゃあんまり見かけないわ。魔族って見つかると捕えられて貴族街の方へ連れて行かれるから」

 ラディカルは落胆の色を示す。貴族街ともなれば難易度は一気に上昇する。
 そしてカルミアの言葉内にあった捕えられて、という言葉。

「捕えられてって……」
「さぁ、私は詳しくは知らないけれど、まぁ。リヴェルアより悲惨……凄惨な扱いを受けていることは間違いないでしょうね。まぁリヴェルアより魔族の人数が少ないのと、アルベルズの特徴としては、市民街にいる人ならそこまで魔族を侮蔑視しないことね」

 扱いが――それは。

「魔族を探したいのなら貴族街へ行った方が手っ取り早いけれど……そうねぇ」

 カルミアは腕を当てて考え始める。

「……それより、何故アークは……いえ、ラディーは魔族を探しているかしら?」

 質問をしたのはアークだが、言動からラディカルの方が目的を持っているとカルミアは気がつく。


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