零の旋律 | ナノ

V


「そうですけどーそれよりも気になることがあるんですけどいいですかー?」
「な……何だ?」

 リアトリスの底抜けに明るい言葉に女性は戸惑う。

「そこの変な服来ている男性はなんなんですー?」

 リアトリスが人差し指でさした先には――世界ユリファスでは見かけない布を重ね合わせたような作りに、何処か落ち着いた雰囲気を漂わせている。何より、動きにくそうだなとリアトリスは感想を抱いた服を着た青年がいた。青紫髪を肩まで伸ばし、瞳は不気味な赤黒さを放っている。手には見なれない傘のような物がある。

「変な服って失礼ですね」

 青年は苦笑する。

「変な服は変な服ですよー! 他の人はそんな服来てないじゃないですかー!」
「これは常盤(トウバン)という一族が好む服装ですよ。気にしなくてもいいですよ。というかそもそも私の服について議論する場面でもないでしょう」

 ごもっともな言葉にシェーリオルは思わず頷いてしまった。敵だろうが味方だろうが、漫才をやらないと気が済まないのか、レインドフ家は、と思っていたところだった。

「……変な方向に話しが逸れてしまったが、さてユリファスの侵入者は何をしにきた? 少人数で。いや、二名は街へ侵入しているか」
「そんなことわかるのか?」

 シェーリオルがやや驚愕しながら問う。ヴィオラとジギタリスが街へ入ってまだ数分も立っていない。違う方向から彼女らがやってきた所から、すれ違ったわけでもないのに、具体的な数までもを彼女は知っている。

「ん? あぁそうか。お前たちはこの世界について知識がないのか、ならば教えよう。此処は“統制の街”お前たちの動向を知ることくらいは容易いよ」
「よくわからないが、お前らは俺らをどうするつもりだ?」
「当たり前のことを尋ねないでほしい。不法侵入者を私たちが放っておくわけないだろう」

 その言葉を合図に、アークが我先にと走り出した。
 銃を鈍器のように扱い振りかざしたのを受け止めたのはアークと同身長程度の少年だった。愛らしい顔つきの割に長身な身体、ふんわりとした服装。鈍器の扱いをした銃を受け止めたのは長剣だ。しかしすぐに不利だと判断したのか少年は後方に飛び跳ねて間合いを取る。
 その様子にシェーリオルは嘆息するが、どの道戦わないわけにはいかない。

「騒ぎを起こすなと言われていなかったか? とアークにいいたいところだが、是は騒ぎを起こさない=死だよな」

 レイピアを抜き構えながらもアークのように走り出すことはせず様子を見る。“魔導”を封じられているこの地で、不用意に飛び出して足手まといになるわけにはいかない。
 ホクシアがその様子にそぐわない刀を抜く。雲ひとつない刃はホクシアの表情を映し出した。

「好戦的ですねぇ〜」

 呑気にリアトリスはいいながらも何時でも応戦出来るように武器を構えてはいた。
 アークはその間にも銃を振りまわす。銃と剣がぶつかり合う。他のエリティスの面々も少年とアークの戦いを見守っているわけにはいかないと、アークへ向けて銃を発砲する。
 アークは軽々と交わしてから、鈍器として使用していた銃を、今度は飛び道具として使用した――投げつける形で。
 銃を発砲した人物の顔面に命中し、その人物は倒れて気絶した。

「あ……間違えて投げた」
「馬鹿かお前!?」

 シェーリオルは思わずツッコミを入れずには気が済まなかった。銃で応戦すればいいのに態々銃を投げつける必要はない。球切れを起こしているわけでもないだろうに――尤も壊れている可能性は大いにあるが。何せ何度も剣とぶつけあったのだ。

「それ以前にお前おかしいだろ!」

 銃を鈍器にして扱うのにおかしさを感じていたのは当然刃を交えていた少年もだ。

「そうか? 武器なら何だって武器になるだろ――」

 ブーメランが投げられてきたのでアークはそれを指と指で挟んで武器を手に入れる。

「……わけわかんねぇ」

 少年が悪態をついた。この場にいるエリティスの誰もがその言葉に同意したかった。


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