零の旋律 | ナノ

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 荒れ果てた荒野を進むこと数時間――シェーリオルとホクシアの体力を考慮して途中休憩を何度か挟んだ――外壁が視認出来るとこまで到達した。
 外壁の状態からいって“街”であることは確実だ。自然と足は早歩きになる。
 外壁の前に到着した時、ヴィオラが告げる。

「中には俺が入る。……魔術師たちの外見はまぁ俺たちと同じでも、服装とかに違和感がある場合もあるし、大人数で入れば目立つだろう。俺なら相手に触れれば記憶が読める。相手がいなくても触れれば大体のことはわかる」
「ほんと便利な能力だよなぁ。任せた」

 魔導が使えない今、ヴィオラについていった所で対して役に立てないとシェーリオルは判断した。

「俺は興味あるけどなぁ……」
「アーク、お前は来るな」
「はいはい」
「……ヴィオラ、お前がいくのならば私もついていこう。此方はアークもいることだ、何かあっても問題ないだろう。お前も魔術は使えるが、しかし、一人で行動するのは得策ではない。何より、私ならば危ない相手は判断出来る」

 ジギタリスの言葉にヴィオラは頷く。否定する要素は何処にもない。

「誰かが来たとしても不要な争いは起こすなよ。下手に騒ぎを大きくしても面倒になるだけだからな」
「わかっているよ」
「わかっているわ」
「……返事がないアークとリアトリスが特に心配なんだけどなぁ」

 ヴィオラは一抹の不安を視線に現してから、ジギタリスとともに外壁の中へ足を踏み入れた。

「暇だ」
「暇ですー」

 ヴィオラとジギタリスの姿が見えなくなった途端、暇だと呟きだすレインドフ家の主とメイドにシェーリオルは拳骨の一発お見舞いしても罰あたらないよな? と考え始めていた時だ

「ん?」

 アークとリアトリスがほぼ同時に反応し、明後日の方向を見る。

「どうした?」
「騒ぎ起こすかもよ?」
「は?」

 アークの言葉に要領を得ないシェーリオルだがすぐに理解することになる。
 外壁が壁になって見えなかったが、恐らく外壁の反対側から此方へ向かってきただろう集団が映る。

「……魔術師か?」
「だろうよ、問題は偶々か俺らを排除しにきたかだな」

 アークは銃の引き金部分をくるくるとまわしながら遊んでいた。セーフティーは掛けられているのだろうが、暴発したらどうするんだとシェーリオルは顔を顰める。

「さて、何人だ?」
「いちにーさんしーご、ろく、なな人ですねー」
「呑気に数えなくていいわよ」
「そうですかー?」
「当たり前でしょ」

 緊張感が漂うホクシアとシェーリオルとは対照的に呑気なリアトリスと銃で遊ぶアークの異質な組み合わせに、彼らの元へ確実に近づいてきている集団は奇妙な光景を見たかのような視線を向ける。

「お前らはユリファスからの侵入者だな」

 集団の先頭を歩いていた女性が澄んだ声で問う。
 女性が歩みを止めると、後方にいた集団も歩みを止めた。どうやら、女性がこの集団のリーダー格と見て間違いないだろう。


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