零の旋律 | ナノ

Side:エリティス


 滅びゆく世界、その表現がふさわしい程にそこは荒廃していた。
 草木一本すら育たない、見果てる限りに広がる荒野。土の色は黒く汚れ果てている。建物は雨ざらしの結果か、元の形をとどめないほどに崩れ、地面に僅かな痕跡を残すだけ。分厚い雲に覆われた世界は、陽の光を大地まで伝えない。

「是が魔術師の世界か。なんてーかもっとユリファスと変わらねぇもんだと思っていたけど、全然違うな」

 両手を後頭部に当てながら呑気な感想をアークはもらす。

「……俺の記憶にある魔術師の世界エリティスよりもずっと荒廃が進んでいる。それほどまでにもう死にゆく定め何だろ」

 ヴィオラは無機物に触れていく。放棄されてからかなりの年月がたっているそれは人の思いですらも奪い去るのか断片的にかけた記憶しか読みとれない。彼らに伝える程の収穫はなかった。

「だから異世界ユリファスを乗っ取るか。成程、確かに手っ取り早くはあるな。ならばしかし、何故この瞬間まで彼らはユリファスに手を出してこなかった? もっと以前より侵略してきても不思議ではなかっただろう?」

 ジギタリスの率直な疑問にヴィオラは推論で返す。

「恐らくは結界を破れなかったんだろ?」
「……理には叶っている(しかし、本当に数百年の年月をかけても破れないものなのか?)」

 疑問を抱きながらも、真実を知るには情報のパーツが足りなさすぎたため、何も言わない。

「是が、魔術師たちの定めなのね、争うことをやめなかった魔術師の」
「そうだな。戦いに霹靂した俺たちは世界ユリファスへ移住したが、魔術を捨てることを拒み、争いの道を選んだ奴らの末路だ」
「尤も――今の魔術師にとってみれば過去の人がした決断を、今の世代の責任に持ちこされてもこまるのでしょうね、先人が仕出かしたことの結果を彼らは背負わされているのだから、だからといって私は同情しないけど」

 淡々と冷たく言いきるのはホクシアが魔族だからだろう。人族から虐げられてきた結果をホクシアは例えどんな過程だったとしても許すつもりはないのだ。

「ではでは、人がいるところまでいきましょーです!」

 何処にいても場違いな程明るい雰囲気でリアトリスが告げる。その手に槍が握られていなければ是からデートにでも行くような明るさだ。

「確かに。此処にいても何の情報も得られないだろうしな。……ホクシア、魔法は使えるか?」
「いいえ、無理なようね」
「わかった」

 シェーリオルの質問にホクシアは間髪いれず答える。推測通り、魔法は封じられていた。恐らくは彼らがこの地へ足を運んだことすら知られているだろう。

「とりあえず歩くだけでいいのか?」
「……俺らレスがこの世界へ来る前の記憶だから、今は荒野になっているかもしれないが、昔あった大都市へ向かう。当てもなく彷徨うよりはましだろ?」
「そうだな」

 ヴィオラは記憶を手繰り寄せるようにしながら前へ進む。
 元々この世界に住んでいた人であったとしてもヴィオラは此処を故郷だとは思わない。何より故郷を捨てた一族だ。


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