零の旋律 | ナノ




「話は終わったか?」

 シェーリオルたちが戻るとミルラが声をかけてきたのでカサネが頷く。その場には既にエリーシオはいなかった。王子を一人で返すなよとヴィオラは内心思うが、しかしエリーシオは武道の達人として有名な王子だ、例え襲われたとしても返り討ちにするだけの自信があるのだろう。何より道中で殺されるような実力であるのならばカサネが一人でエリーシオを帰還させたりはしないはずだ。

「じゃあ説明するぞ。シャーロアが異世界への扉を魔術で維持する。此方の世界と魔術師の世界を繋ぐのは俺とシャーロアの魔術だ。この結晶が俺たちを繋いでいる」

 サファイヤの輝きを発する結晶をアーク達へ見せる。この結晶には魔術が構成されている特別な代物だ。そして、結晶が異世界とこの世界を繋いであるのであれば、万が一ヴィオラが死んでも、結晶さえあれば元の世界へ戻る手段があるということだ――ただし、その場合にはいくつもの条件が存在するが。

「この場所が襲撃されないよう、ミルラには結界を張ってもらった。傍から見れば何の変哲の更地にしか見えないように視覚作用のある結界だ。それと、結晶にはミルラの思念と魔法が組み込まれている。何かあればミルラと会話が出来るように特別な『魔法』を使ってある」

 魔法は使えなのに魔法を組み込む。
 それは即ち――ミルラであれば『魔法』が何処でだろうと使えると言うことを示すことに他ならない。
 シェーリオル同様、否それ以上に規格外の人物だと、カサネは視線を静かにミルラへ移す。

「へー面白そうだな」
「……アーク、頼むから口を挟むな。なんか怒気が下がる」
「……」
「魔術師の世界では『魔法』は使えない物と判断しても間違いない――準備はいいな」
「いつでも」
「はいはーいってあ、ちょっと待ってて下さいです」

 リアトリスはそういうと、腰のリボンになっている部分に滑らかな動作で手を入れそのまま何かを掴んで引き抜く。すると連結が出来る形のそして――花弁のような刃が無数に連なった槍が出てきた。

「はーい、準備はいいですよー!」
「わかった。じゃあアーク、ジギタリス、リーシェ、リアトリス、ホクシアは俺の元へ」
「では、目的を達成したら此方の世界へ戻ってきてください。長居は不要です」

 カサネの言葉にヴィオラは頷く。目的を達成するための少数精鋭だ。
 ヴィオラは精神を統一する――瞼を閉じ、そして魔力を高める。しなやかな指使いで、文字を描く。描かれた文字は青白い発光をする。幾重もの文字が複雑な螺旋を構成すると、弾けるように広がり、異世界へ行く彼らを包み込むと、宙に浮く扉が解錠される。青白い文字は見果てぬ空間へ吸い寄せられる。

 そして――彼らは異世界へと旅立った。


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