零の旋律 | ナノ

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 エリーシオはエレテリカのことを嫌ってはいない、弟として可愛がっているが――カサネ相手では別だ。
 それなのに手を組む、意味が理解出来なくて当然と言えば当然だ。

「言葉のままの意味ですよ。王子……いえ、エレテリカが王じゃなくてもいいといったのです、ですから私はそれに従うことにしたんですよ」
「は?」
「普段は要領がいいのに、今日は随分と要領が悪いですね、シオル。エレテリカが王になるよりも私と一緒にいることを望んだのです、ですから私はエレテリカを王にすることを断念した。それだけですよ。まぁエレテリカに幸せになってほしい思いは一片も変わっていませんので、最終的には好きな人と結婚して幸せな家族生活を築いてほしいと思ってますし、それに全力はつくしますが」
「……成程な。それにしてもやっぱりお前前々から思っていたけど“幸せ”の定義が固定的すぎるぞ」
「そうですか? まぁそういうことです。エレテリカが王にならないのであればエリーシオと敵対する必要はありませんからね、この場においては手を組んだ方がいいと判断しました」

 例え敵だとしても手を組んだ方が合理的であれば、今までの禍根を全て無くして手を組める、それが策士カサネ・アザレアだ。
 シェーリオルは複雑な心境のまま、それでも表面上は冷静に努める。カサネがそうと決めたことならば自分は反対をする必要はないのだ。

「で、どんな内容で」
「エリーシオを王にします、その代わり此方にも協力をしてもらう、それだけですよ」
「あぁ……成程。エリー兄さんはそれでいいのか?」
「良くなかったら、そもそも手を組んだりはしない」
「だろうな」
「……リーシェ。異世界へ行くそうだな。気をつけて行って来いよ。万が一のことがあれば、家族が悲しむんだからな」
「……あぁ、大丈夫だよ」

 “家族”に僅かばかりシェーリオルの返答が遅れる。

「はぁ。……あのな、リーシェ。この機会だから言っておく、例え母上と血が血ながっていなかったとしても母上は勿論、父上に俺、エレとは家族であることには何一つ変わらないんだ。そこに負い目をお前が感じる必要は何処にもないんだぞ」
「――! 知っていたのか!?」

 “母親が違う”その事実をエリーシオは知らないとシェーリオルは思い込んでいた。
年齢が離れていれば気がつかれたかもしれないが、エリーシオとは一歳差だ。昔から分け隔てなく接してくれた王と王妃の態度から違和感を覚えることは出来ないはずだ。
 それなのに、何故――エリーシオは気がついていた。カサネは黙って状況を見守っている。王になる気がない明確な“理由”をカサネにシェーリオルは話しているため、この場の状況をカサネは理解している。

「当たり前だ。俺はお前らの兄だぞ? 気がつかないとでも思っていたか? 俺を舐めるな。下らない隠し事でお前が悩む必要なんて最初からないんだ」
「いつ、気がついたんだ?」
「そうだなぁ……十五の頃には既に気がついていたさ。そもそも、お前、髪と瞳の色だって俺たちと違うだろ、母上や父上は先祖がえりだろうといって笑っていたけどな。まぁ何が決定的だって言われればこう答える。お前の母上に対する態度が何処か他人行儀だったって話だ。違和感を覚えないほど俺は鈍くはない」
「……そうだったのか」
「当たり前だ。母上がお前を俺たち同様に愛情を注いでいてもお前の行動が他人行儀ならおかしいと誰だって思う。それに気がついていても知っていてもお前が弟であり家族であることは何一つ変わりない。だから死ぬな、自分の命を粗末にしても俺やエレがいるからいいやなんて自暴自棄なことは思うなよ。母上は俺やエレが死んだときにおう悲しみと同様の悲しみをお前が死んだからおうのだからな」

 エリーシオの言葉が不思議と心にしみる。

「わかったか?」
「はい、兄上」
「気持ち悪い。いつも通りエリー兄さんでいいよ」
「だろうな」

 エリーシオとエレテリカには決して話さなかった事実を認めていてくれた、心が少しだけ軽くなった気がした。
 そして少しだけ、シェーリオルが勝手に引いていた境界線の先が増えた。


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