零の旋律 | ナノ

兄弟


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「で、俺を呼びだした用件ってなんすか?」

 ラディカルは王城の廊下を歩きながら問うが返答はない。カサネは無言のままある部屋へラディカルを通した。王城にある部屋とは思えないほど華美な装飾がない室内にラディカルは首を傾げる。誰の部屋だろう、と。

「此処は?」
「シオルの部屋です」
「策士様の部屋じゃないんすか!?」
「私の部屋に貴方を入れるわけないじゃないですか」
「いや、薔薇魔導師様の部屋を勝手に使うのもどうかと思うけど……」
「いいんですよ。シオルの部屋に見られて困るようなものはないでしょうし」
「わかんないっすよ、家宅捜索してみれば案外ブラックなものでてくるかもしれないっすよ」
「それはそれで面白いからいいです。と、無駄話するつもりはありません、これを」

 カサネは我がもの顔で机の上にある小物入れから封筒を取り出し手渡す。

「これは?」
「いざという時のための切り札ですよ、開けるタイミングは――」

 カサネはラディカルに封筒の中身を説明する。驚愕に目を見開いたラディカルだったが、徐々に真剣な顔へ変っていく。
 ――切り札ってことっすか。そして最悪を回避するための最悪で最良な最低な手段。
 ――流石策士様。嫌悪しか湧かないっすよ。


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 時計の針が刻一刻と動き、待ち合わせの時間を知らせる時、彼らは集合する。そして魔術師の――レスの村へホクシアの先導で、同伴者を一人加えて進む。

「此処よ」

 村だった場所は既に更地になっており何も残っていなかった。
 此処に人が住んでいたとは言われてもわからないほどにその痕跡はなかった。
 痕跡を徹底的に抹消したのだ。人族がこの場所に訪れても何があったかを理解させないために。村として歩んできた歴史を隠蔽した。
 更地の中心部には地面に描かれた白の魔法陣、それを媒体として宙に摩訶不思議な扉が浮いていた。

「成程、是が異世界への扉というわけですか」

 カサネの言葉に魔導を形成するのに集中していたシェーリオルは振り向いて――固まった。

「エリー兄さん!?」

 驚愕した視線の先には本来ならばこの場にいるはずのない人物第一王位継承者エリーシオがいた。エレテリカと同色の明るい茶髪。桃色の瞳からは理知的な印象を受ける。身軽な服装に纏った姿は威厳がある者の、シェーリオルとは別の意味で王族らしくない。何故ならば、戦闘において邪魔にならない作りになっていたからだ。戦うことを前提として作られた服程、王族に相応しいとは言えないだろう。

「リーシェ、お前に話がある、こっちへ来い」

 エリーシオは返答を待たずして人気のない方へ進んでいった。カサネもそれに続く。
 険悪の仲であるエリーシオとカサネが何故行動を共にしている? 疑問符が頭の中を廻りながらもシェーリオルはヴィオラに断りを入れてからエリーシオの方へ駆けて行った。
 誰にも話が聞こえない場所までたどり着くとエリーシオは木を背もたれにした。

「何故エリー兄さんが? それもカサネと一緒に!?」
「手を組んだ」

 エリーシオが端的に事実を述べる。

「どういう……?」

 聡明なシェーリオルはしかし、すぐに意味を理解出来なかった。
 第三王位継承者エレテリカを王にしようとしているカサネと、第一王位継承者で王になろうとしているエリーシオは共に王位を狙う者同士。
 はっきり言えばカサネとエリーシオは敵だ。


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