零の旋律 | ナノ

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「アルベルズ王国の方が先かなって思って」
「眼帯君は現状打破したいって思っているのか?」

 率直な疑問。

「さぁ、どうなんだろうな。俺もよくわかんねぇや。でもルキを助けた時にちょっと想うことがあってな」

 ルキ――それはホクシアと行動を共にしていた魔族の少年。魔族の少年は人族を心の底から憎んでいながらも、ラディカルを助けた。生死の境から助けてくれた。その事がラディカルの心に深く残っていた。

「ふーん、まぁ俺としては詮索するつもりもないし、万が一魔族を見かけたら眼帯君に出会った時にでも教えるよ」
「有難う、お兄さん」
「いえいえ、どういたしまして」

 アークが軽くお礼を言った時だ、路地裏にまで聞こえてくる荷物が激しく落下した音。
 そして女性の悲鳴。ラディカルは反射的に路地裏から出て、大通りをみる。アルベルズ王国の軍人と、軍人から離れるようにして出来た人だかりが目に映る。

「なんだろ、お兄さんちょっと行ってみようよ」

 ラディカルはアークの袖を引っ張って騒ぎの中心に向かう。
 人々をかきわけて顔をひょっこり出すと、軍人数名と女性が泣きながら軍人に引っ張られている。

「なんだありゃ?」

 ラディカルが首を傾げると、隣にいた男性が忌々しそうに答えてくれた。

「お前……知らないのか。徴収だよ。だが……あそこの家は徴収金額が払えなくてな……」
「払えないとどうなるんだ?」
「……連れて行かれる。働き手である旦那は無事かもしれないが、奥さんは」
「税金の徴収率を下げないために旦那は残しておくってことかよ」
「あぁ、そういうことさ」

 悲痛な、悲壮な顔で女性と軍人、そして泣き崩れる男性を交互みる。
 しかし誰も助けようとはしない。軍人には逆らえない、逆らえば自分たちの末路が見えてしまうからだ。
 誰も彼もが自分の身を第一に考える。

「……何処も……かしもこ」

 ラディカルの瞳が鋭くなったことに、アークは興味ないながら気がつく。

「ふざけんな!」

 石が軍人に投擲させる。軍人の額に当たり僅かに血が流れる。

「おい! ふざけんな誰だ」

 激昂する軍人に続けて石が投擲させる。ラディカルではない。少年だ。まだ七歳かそこらの少年が手身近にあったものを軍人に精一杯の力で投げつける。

「母さんを連れて行くな!!」
「やめろ」
「やめてっ」

 少年の声を重なるように、夫婦二人が叫ぶ。この子は関係ないと。
 しかし一度目をつけられた軍人に逆らう術を少年は持っていない。軍人が掲げた手が、少年を殴ろうとする。

「ちっ」

 ラディカルはナイフを構え、少年の元へ掛けようとしたがアークが手で制す。何か、とラディカルが少年と軍人を見た時――撫子が映った。軍人の手は少年に振り下ろされることはなかった、何者かが右手で軍人の手を抑えているからだ。撫子色の髪が風の流れに逆らわず揺れ、姿が視界に映る。口には煎餅を加えている。煎餅を一度歯で強く噛んで割る。それを落とさないで全部食べつくしてから、軍人の手を離す。
 紙袋を左手で持ちながら撫子色の髪を持つ男性――カルミアが口を開く。

「子供相手にみっともないことをして、どうするのかしら」

 女性的な口調で、カルミアは軍人を宥めるように言いながら、左手で少年にあっちへ行きなさいと指示をする。その先はラディカルとアークの方へ向いていた。
 少年は状況を理解していなかったが、カルミアの指示に従ってラディカルとアークの元へ向かう。


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