零の旋律 | ナノ

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 リアトリス、カトレア、シャーロアの三人はリヴェルア王都を散策していた。魔法封じの騒ぎが終結していないため、普段の賑わいこそないにしても、それでも店は普段通りに開店している。夜間までやっている喫茶店内に彼女らははいり、お茶とケーキをそれぞれ頼んだ。

「はうわ! このケーキ美味しいですよーあ、一口くださいですー」

 魔術師の世界へ――現実感が薄い内容を耳にしてもリアトリスは何時も通りのテンションだ。つられてシャーロアやカトレアも笑う。
 友達同士の他愛ない会話がとても楽しい。それは現実を忘れさせてくれるように甘い。

「いいよ。でもリアトリスのも一口頂戴ね?」
「勿論ですよー!」
「私のも、あげるね」

 それぞれ自分たちが頼んだケーキを一口ずつ上げる。
 リアトリスはモンブランを、シャーロアはショートケーキ、カトレアはフルーツタルトを頼んでいた。
 ほの甘く口の中でとろけるケーキは、友達と食べるからこそ“美味しい”
 夜のお茶会は当分終わらない。
 楽しい時間が経過するのは早くても。

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 明朝、彼らは拠点としている部屋に集合した。
 カサネは一睡もしていないのだろうが、その表情に疲れの色は見られない。

「さて、少数精鋭で行くといいましたが勿論、全員魔術師の世界へ行くわけではありません。とりあえずヴィオラとシャーロアは別れてもらいます」
「……魔術師の世界と、此方の世界を繋ぐ道標か?」

 ヴィオラはカサネの言わんとしていることを的確に当てる。

「えぇ、そうです。道を繋げてもらいます」
「なら俺が異世界へ行こう」
「お願いします。それとミルラかシェーリオルどちらかは魔術師の世界へ行って下さい」
「ならばシェーリオルが行け。私は結界を貼っている必要がある以上、不用意に魔術師の世界へ足を運ぶ気はない」
「ではシオル、お願いしますね」
「俺の意見は関係なしか、まぁいいけど。だがカサネ、俺は魔導師だ。魔術師の世界が魔法封じを作動させる欠点はないぞ」
「まぁレイピアがあるから何とでもしてください」
「おいおい」

 あっさり告げるカサネにシェーリオルは苦笑しながら肩を竦める。
 カサネの魔術師の世界へ行く面子――魔導師や魔術師、魔法師への思惑は他にもある。
 ヴィオラもシェーリオルも、そしてミルラもそのことには気が付いているが言及はしない。保険をかけておくことに関してはヴィオラ自身賛成だからだ。ヴィオラが反対をしないのならば、反対する必要がなかった。
 保険――それは、魔術師の世界で万が一ヴィオラが死んだ場合、彼らがこの世界に戻って来られない可能性がある。勿論、魔術師の世界からの方法で戻ってくることが出来るかもしれないがそれもまた可能性だ。不可能な可能性がないとは限らない。
 だからこそ、一人より二人。且つ、異世界から異世界への移動が出来る程の『魔法』を扱えるものは限られてくる。異世界を渡る『魔法』はミルラかシェーリオルならば可能だとカサネは判断したのだ。
 それをカサネが言葉にしてはっきりと伝えないのは、ヴィオラの妹であるシャーロアを不安にさせないための配慮だ。作戦を円滑に進めるためならば、配慮をする。

「お兄ちゃん、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。それに――此処だって安全なわけじゃないからな。時間が経過するほどに魔法封じと魔術師、それに帝国の動きは活発になっていくだろう。頼んだぞ」
「うん……! 任せて」

 ヴィオラは優しくシャーロアの頭を撫でた。それが兄妹間での心を安心させるやりとりだ。

「他の面々はひとまず置いておいて、魔族の二人はどうしますか? どちらかは異世界へ行くのでしょう?」
「昨日、サネシスと話したわ。私が魔術師の世界へ行くわ。魔法が使えなくとも足手まといにはならないつもりよ」

 ホクシアの言葉にミルラやサネシスは心配そうな視線を向けたが、それを一刀両断する勢いの断言だった。


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