零の旋律 | ナノ

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「そうだ、あのカサネとかいう少年は何者だ? 酷く違和感がある」
「違和感?」
「あぁ。歪だ……そうだな、しいていうなら本来あるものを無理矢理乱雑に閉じ込めている歪を感じた」
「……知りたいのなら本人に聞け」

 ミルラが感じた歪の正体を知っている。それでも、例えそれがどれほど的確な答えだったとしても、シェーリオルが語ることはない。

「成程な」

 だが、それでも答えない答えがあることを知っている。

「あの少年も、また魔族の血が流れているな」
「俺は何も答えない。聞きたいのなら本人に聞け」
「そうさせてもらおう。あの少年の元へ私を連れていけ」
「……わかったよ」

 地下室から出るとシェーリオルは再び地下室への封印をかけ直す。
 何処にいるかわからないカサネを探すのにミルラを連れて歩くわけにはいかず、シェーリオルの自室へミルラを待機させた。カサネは自室で筆をはしらせていた

「カサネ、ミルラがお前と話したいとよ」
「わかりました」

 カサネは筆を置き、ミルラの元へシェーリオルと共に向かった。カサネと話がしたいといったミルラだが、この場にシェーリオルがいることを拒絶しなかった。逆もまたしかり。

「何用ですか? 貴方は私のことが嫌いなのでしょう?」
「あぁ、嫌いだな。魔族の癖に人族のふりをしているお前は」

 疑問形ですらない断言。魔族の単語にカサネは眉ひとつ動かさなかった。こうなるだろうことは予め想定していた。彼が魔族の常識をも外れた存在であると直感が告げていたからだ。

「魔族、といっても完璧な魔族ではありませんよ? 三分の一は人族の血が混じっていますし」
「それでもラディカルよりお前は魔族だろう」
「彼がハーフだと言うことにも気づいていましたか」
「当たり前だ。魔族かそうでないかなんて、見れば大体判断がつく」
「他の魔族は判断つかないと思いますよ」
「私を舐めるな。それにお前の場合は、歪だ。人族の容姿をしているのに、その姿に酷く違和感があった。そうだな……本来あるものを無理矢理閉じ込めているような違和感がな」
「成程。まぁ貴方にとやかく言われようとも、私は私の態度外見を改めるつもりはありませんよ、それと勘違いされては困りますので先にいっておきます。私は別に人族の味方ではありません。人族だろうが魔族だろうがどうでもいいんです。目的のための障害になるのならば、誰だって殺します。殺して目的を達成します」
「ふん。別に口外するつもりはねぇよ。魔術師たちの世界へいくという大言壮語を言った奴にはそれを実行してもらわないと困るからな」

 カサネが魔族の血を引いている、それが露見すればカサネの計画がとん挫する可能性が高いことをミルラが予想出来ないわけではない。
 例え現状は種族に拘っている場合ではないとは言え、人族の外見で周囲を欺き策士として王宮にいたカサネが実は魔族だったと知られれば反感は当然大きく、カサネの計画に支障をもたらすことは必然的だ。

「そうしてないと困りますよ。この世界を守っている結界の担い手を始末するわけにはいきませんしね」

 肩をすくめるカサネだが、表情は真剣そのものだ。

「はっ、私を殺せる人などいない」

 自身満々なミルラの返答に、カサネは表情を変えず、彼に背を向けて話は終わったと部屋から出て行った。

「話が通じるようで通じない奴だな」

 ミルラはカサネをそう評価した。

「まぁ、カサネはカサネの信念のもと動くから、それを根本からずらすことは誰にも出来ねぇよだから――」
「だから何だ?」
「何でもないさ」
「そうか……まぁいい、私はこれ以上お前と一緒にいるつもりはない。一つだけ言っておく。シェーリオル・エリト・デルフェニ。私はお前を消した方がいいと判断したらお前を殺す」
「そうか」

 シェーリオルはそうか、としか返答をしなかった。
 何故なら消した方がいいと判断されないために動く気もないし、消されたいとも思っていない。
 その時は全力で相手をするだけだからだ。


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