零の旋律 | ナノ

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「まぁ魔族の血といっても、瞳が金色でない時点では魔族に分類されないからな。“人族”であることには変わりない。魔族の力の源は『金色の瞳』であり、金色の瞳をもたない物は、魔法を扱えない。だが、ときおりいるんだよ――魔族の血をひいているが金の瞳ではないが故に、魔導の適正が他の人族より飛び抜けたやつをな。そういう奴のことは大抵天才とか神童とかと呼ばれる」
「……」
「そういうことだろ? 魔族――金の瞳を有する者は他人の魔力である魔石は操れない。しかし、金の瞳でないものは魔力の源を有さないが故に、他人の魔力である魔石を操れる。時としてそれは、普通の魔導師よりも遥かに強力な、な。まぁお前の血筋に心当たりがないわけでもないしな」

 ミルラの言葉にシェーリオルは否定しなかった。事実、シェーリオルは知っていた。母親がこっそりと自分に耳打ちをしたのだ。実は薄いながらも魔族の血を引いていると、そしてその血が自分にも流れていることを。だからこそ、自分の力に耐えきれずに魔石が壊れるのだと直感していた。尤も、そのことを誰かに言ったことは今までない。
策士カサネ・アザレアにすら告げたことはない――尤も、彼が気づいている可能性はある。
 だからこそ、そのことを的確に当ててきたのは初対面であるミルラだけである。

「……長命な魔族であるホクシアから長生きと言われ、そして“本にある名前”がお前であるのならば、お前は一体いくつだ?」
「さぁ、正確な年齢は忘れた。五百年は超えているな。六百年近いだろう」
「百年はかなりの差なんだけどなぁ……なら、やはり本の中にある名前“ミルラ”はお前か」
「あぁ、そうだ。私は嘗ての人魔大戦を記憶している、魔族の中――三人の中の一人だ」
「他にもいるのか」
「尤も、そろそろあの二人は寿命だ、それに真実は知らない」
「……成程な」
「あの本は、当時のリヴェルア王国……いや、初代リヴェルア王国国王の書いた贖罪ってか、反吐がでる」

 忌々しそうに、本心からミルラは吐き捨てた。
 シェーリオルがミルラに見せた本とは初代リヴェルア国王が書いたものだったのだ。
 彼は約五百年前に起きた人族と魔族の争いの渦中にいた当事者だ。渦中にいた時には気が付きもしなかった真実を後に知り、心中に仕舞い続けることが出来なかった後悔と真実が綴られていた。
 本でありながら手紙のように宛名をつけて――ミルラへと。
 だからこそシェーリオルはミルラの名前を聞いた時この場へ導いた。ミルラへ宛てた手紙ならこの封印魔導を彼が本人であれば解除することは容易いと。その推測は見事に当たっていたのだ。

「忌々しいっ……そんなことを今さら綴られたところで、意味など……ない」

 ミルラの空虚な響き。

「……何があの時起きていたんだ?」

 シェーリオル興味本意で本の中身を呼んだのは十歳になるかならないかの頃だった。本の内容は今でも記憶している。しかし、“肝心なことは何一つ書かれていなかった”否、当時を知る人でなければ知りようがないように書かれていたのだ。だからこそシェーリオルが理解出来たのはその本がミルラへ宛てたものであり、人族と魔族の争いの裏に何かが起きたことを示唆するものであり、初代国王の後悔を綴ったものだったということだけだ。

「それをお前らに話す必要はない」
「折角なんだ、教えてくれたっていいだろう」
「……昔から小競り合いはあったが、それでも相手を滅ぼうそうとする争いにまでには発展しなかったんだよ。けど――ある時そこまでの争いに発展した、その原因を争いが終わるまでリヴェルア国王は知らなかったってだけの話さ。知らなかったが故に自分の仕出かしたことを後悔したってな……下らねぇ」

 ミルラの瞳が僅かに揺れたのを見たシェーリオルは追及したところでこれ以上は何も話してくれないと判断した。


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