V 第二王位継承者シェーリオルと魔族のミルラは王宮の書庫へ向かった。 王宮の書庫は予めシェーリオルが人払いを済ませていたのか、閑散としている。厳重な扉を開けなかに入ると、中央に花柄の紋様が描かれ、そこを中心とし本棚が所せましと並んでいる。一冊一冊がリヴェルア王国の歴史を記述してある。 シェーリオルは花柄の紋様が描かれた場所で魔石を輝かせながら桜色の光で花柄の紋様と同じ形を描き、光と紋様を重ね合わせると花柄の紋様が半透明になり地下へ続く秘密の階段が現れた。 「ほう……」 階段をシェーリオルとミルラは下っていく。地下には小さな石垣で出来た部屋があった。誰かが秘密の何かを記しておくために用意しただろうことは一目で判断出来る、そんな内装だった。 テーブルの上には一冊の本がある。 「是は?」 「お前なら解けるんだろ?」 無造作にシェーリオルはミルラへ投げ渡す。本を開けようとすると魔導の鎖が姿を現し、本を開くことを拒む。仮に鎖を解いてもさらに複雑な魔導が幾重にも施されていて、他人に読まれないよう永遠に封印しておくための仕掛けがなされていた。 「何故そう思う? そして何故私に渡す」 「昔、これを発見した時興味本意で解除しようとしたけど途中で断念したのさ。けど、お前程の腕前なら解けるだろ?」 「……あぁ」 ミルラは頷く。この魔導を解くことはミルラにとって容易だった。何故ならばこの『封印魔導』をミルラは知っていた。知っている魔導を開封するのは容易いことだ。 光の帯がいくつも流れだし、螺旋を描き解除する。永遠の封印は破られた。 「――!」 数ページめくったところでミルラの瞳はありありと怒りが滲みだす。本を握り締める手に力が込められる。 やがて、ミルラは全ての頁を読み終えた。後半は殆ど白紙だった。前半に全てを懺悔を込めたのだろう。 「……こんなもので、罪滅ぼしをするつもりかっ!」 苛立ちに任せ、ミルラは魔法を使い本を破壊した。 誰の目にも触れないように、全てを抹消したのだ。 唯一の真実を“真実を知る”ミルラの手で破壊した。 「何が書いてあったのかは知らないけど、それを渡したかっただけだ」 「嘘付きだな」 「何がだ?」 「ばれる嘘はつかないことだ。お前はこの本を読んだ。興味本意でこの本を開封しようとしたのならば、いくら昔とは言え移動魔導が扱えるほどのお前ならば容易だっただろう。そして――再び同じ術をかけることもな」 「……まーな。興味本意があったわけだし」 あっさりとシェーリオルは嘘を認めた。ばれなければ知らぬ存ぜんを通すが最初からばれているのならば嘘をつき続ける必要はなかった。 「シェーリオル・エリト・デルフェニ。お前、“魔族の血”が混じっているだろう」 「……何故そう思う?」 「簡単だ。お前の魔導の力量が異常だからだ。元来王族はそこまで魔導の力が強くない。何故なら、王族は人族の純潔であることを望んだからだ。だからこそ――魔導の実力はそこまで高くはない。なのに、お前は異常なほど強い。それにその瞳」 ミルラはシェーリオルの瞳を指差す――薄い黄緑色の宝石のような瞳を。 「緑、ではあるが黄色でもある薄黄緑の瞳こそが魔族の血が流れている確固たる証拠だ」 「……俺の祖母に魔族の血が流れていたらしい。そして、母は魔族の血を多少は引いていたが、それでも瞳は金色ではなかった。だからこそ、俺の父――現王はそのことに気がつかなかったんだ」 「成程。エリーシオとエレテリカとはお前母親が違うんだな」 「ご名答。俺だけは異母兄弟だ」 [*前] | [次#] TOP |