零の旋律 | ナノ

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 仕事中毒のアークが未だ仕事モードに入っていないのは単純に、まだローダンセを見つけていないのともう一つ予想外の抑止力が存在したからだ。そうでなければ小腹など空かない。何せアーク・レインドフは三日三晩寝ず食わずで動けるんだから。

「さぁ、どうかしらねぇ。でも戦闘狂でもある貴方と戦うなんて野暮よ」
「初めてお前とは話したが予想にたがわないな」
「ふふ、そうかしら?」

 カルミアとアークは初対面だ。単にお互いがお互いの素性を知っていたに過ぎない。だからこそアークはカルミアの姿を初めて酒場で見かけた時、驚愕した。

「あぁ。最も噂は噂でしかないから、俺には何ともいえない部分もあるけれどな」
「そうねぇ、初対面だし。それに貴方には何をいっても無駄でしょうに、仕事中毒であるのだから」
「そうだな、御馳走様」

 アークは財布を取り出し、相場相応額をテーブルの上に置いてから酒場を後にする。カルミアも何も言わない。
 アークがいなくなった後カルミアも外出の準備をしてから酒場を後にした。

「恐らく彼のターゲットはローダンセよね」

 カルミアの予想は的中していた。アーク・レインドフ、その名は隣国にも轟いているが、それでも国の連中が他国の名家に依頼してまで始末したい相手となると、ローダンセしかカルミアには思い浮かばなかった。嘗て、王国の騎士団を務めた元貴族。現状に嘆き愁い、国を改革しようとして貴族を追い出された変わり種。現在は市民街のある一か所に隠れ住んでいる。
 軍人に見つかれば、周りを巻き込むことになると知っているから。
 極力誰も巻き込みたくはなかった。そして一度牙を向ければその実力は圧倒的といえた。
 だからこそ、ローダンセを捕えようとしても、未だにそれを成し遂げる事が出来ていない。
 最も――ローダンセを捕えるのに全力を尽くしているとは言い難かったのも事実だが。


 アークは道中でラディカルと再会した。

「おっ今にも死にそうなお兄さん奇遇だねぇ」
「眼帯君はアルベルズ王国にきた目的は達成出来たのか?」
「いいや、まだだ。やっぱり貴族街とかの方まで赴かないといけないのかなぁ」
「目的という目的はなかったんじゃなかったのか?」

 昨日の会話を思い出す。

「あぁ、あれか。人には言えない目的なんすよね」

 ラディカルの目的は魔族を探しだすことだった。その為にアルベルズ王国へやってきた。
 リヴェルア王国も決して魔族の扱いがいいとは到底言えない。
 しかし、それを上回っているのがアルベルズ王国だった。だからこそラディカルは海賊の船長になりたい目標を後回しにしてアルベルズ王国へ足を運んだ。

「そうか」
「でもま、今にも死にそうなお兄さんにはいってもいいかな。だからさ、見つけたら教えてほしいんだ」

 依頼ではない。しかしアークは拒否しなかった。

「いいよ」

 暇な時の暇つぶしに付き合ってくれたお礼か、はたまた別のものか。

「魔族を見つけたら、教えてほしいんだ」
「わかった」

 嫌そうな顔一つしないでアークは承諾する。

「って何眼帯君、意外そうな顔をしているんだよ」
「いや、こうもあっさり承諾されるとは思わなかったもんで」

 嫌悪せずにアークは承諾した。始末屋アーク・レインドフが魔族に対して何の感情も抱いていないからかもしれない。それでもラディカルにとっては意外だった。

「そうか? 俺は別に魔族とか人族とかどうでもいいし」

 博愛主義とか人種差別を嫌っての発言ではない。ただ単にアークはそう思っているから。それだけのこと。
 魔族からの依頼もあれば受けるし、人族からの依頼も受ける。
 人族を殺せと言われても依頼があれば躊躇しない、その逆もしかり。だからこそアークは魔族を嫌悪する事もない。

「あぁ、成程お兄さんはそういった人だったな」

 アークの本心からの言葉にラディカルも納得する。恐らくヒースリアにいっても対応は別段変らなかったのだろうとラディカルは思う。自分に対して罵詈雑言を飛ばしてきても、魔族と人族に対する扱いは変わらない。進んで助けようとはしないし、進んで殺そうともしない。かといって中立の立場でもない。
 状況によって容易に敵にも味方にもそれ以外にも天平は変る。


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