零の旋律 | ナノ

策士作戦


 “魔術師たちの世界へ侵入しましょう”そうカサネが発した言葉に

「ちょっと、どういうことっすか!」

 いち早く言葉を取り戻したラディカルが問いただす。

「当たり前じゃないですか、守りに徹していても勝てませんよ? だったら元凶をたたきつぶした方が手っ取り早いじゃないですか」

 大胆すぎる発言に、二の句が繋げない。

「はははっ」

 代わりに笑い声が響いた。アークではない。流石のアークも魔術師たちの世界へ行く発言には驚愕していたからだ。
 笑い声の主はミルラだ。

「そりゃいい」

 いち早く賛同したのは、人族を憎悪しているミルラだ。

「確かにいいんじゃないのか。ってか面白そうだ」

 そして、ミルラの言葉に同意する形でアークが口を開く。彼にとってみれば、魔術師たちと戦えるのはまたとないチャンスだ。戦闘狂としての血が唸る。

「全く、この仕事馬鹿はどうすれば仕事と戦闘を忘れられるんでしょう。どぶに埋めればいいですかね?」
「どぶから這い上がってくる主は見るだけで気持ち悪いですよー」
「元から気持ち悪いんですから仕方がありません」
「そうでしたー」
「お前らな!」

 空気を読まないのか読んでいるのか、普段とかわらない調子でヴィオラいわく漫才をし始めたレインドフの面々にラディカルはため息をつく。

「まぁ、確かにそこの策士の作戦は大胆すぎるっすけど、馬鹿げているとか机上の空論とか言うような話でもないっすよね」
「当たり前です。私は勝率のない作戦は練りませんよ。例え遥か昔だとしてもヴィオラ、貴方は魔術師たちに対して知識があるんですよね? ならば勝率は上がります」
「ま、まぁな……」
「でしたら、いいじゃないですか。二度とない異世界旅行ですよ」

 口では軽々と言っているがカサネの表情そのものは真剣だ。

「でもどうやって行くんだ?」

 アークのある意味当然の疑問に、カサネの視線はヴィオラへ向く。

「貴方の記憶でどうにかなるでしょう」
「……そりゃ、不可能じゃないとは思うけど」
「一人で無理だと言うのならシオルに協力させます。シオルが一緒なら可能でしょ」

 疑問形ですらないカサネの言葉に、ヴィオラは苦笑いする。
 確かに不可能ではない。ホクシアの魔石すら壊す程の力量を有するシェーリオルであれば可能だろう。

「ホクシア。取引通りシオルへは魔石を渡して頂きますよ」
「わかっているわ」

 刀をすらりとホクシアは抜き。刃をホクシアの腕に当てようところで、その腕をミルラが掴んだ。

「刀を私によこせ」
「……! ちょ!」
「その方が効率的だ」

 ミルラの一言にホクシアは刀をミルラへ渡す。ミルラは自分の腕を軽く傷つけ血を滴らせる。それらが眩い光を帯び、一つの魔石を作り出した。赤く輝くそれは一切の握りない宝石よりも美しい誘惑を放っていた。

「これを使え、使って見せろ――シェーリオル・エリト・デルフェニ」

 不敵に微笑んでミルラはシェーリオルへ魔石を投げる。

「……どういう」
「私の魔石ならば、どんな魔導を行使酷使した所で耐えきれるだろう、現状私以上に魔力のある魔族はいない」
「いいのか?」
「駄目なら渡さないさ。貴様の実力を見せて見せろ」

 ミルラの不遜な態度に、シェーリオルは笑みを返した。


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