\ 結界の担い手であるミルラを最前線にだすわけにはいかない、その思いは不動だ。しかし――魔法封じがリヴェルア全土、否、世界ユリファス全土に広がろうとしているのならばそんなことを言っていられる事態でもないのだ。 それでも――と思ってしまうのはホクシアの心であり、ミルラの意思とは違う。 ホクシアは覚悟を決めた。 「わかったわ」 今後のことについて会話をしていた時だ、外が騒がしくなってきた。 「何……ってもしかして」 ホクシアは心当たりが多いにあった。恐らくはシャーロアでもないのに、人族のリアトリスが悠々とした足取りで魔族の村に足運んだのだろう。 以前、村に訪れたからといって全ての魔族がリアトリスを目撃しているわけではないし、魔族が人族に対して好意的な視線を向けることもない。 外に出てみると、案の定近くをリアトリスが悠然と歩いていた。 「何故堂々と入ってきているの! 普通外で待つとか何かしないの」 ホクシアの言葉に、意味がわからずにきょとんとリアトリスは首を傾げた。 村へ入ると言う行為が危険だと微塵も思っていない顔だ。はっとしてホクシアは額に手を当てる。 ――そうだ、彼女は始末屋と互角に戦えるほどの実力者なのだったわ 「でも驚いたですよー! いきなり石を投げられたんですから!」 「まさかと思うけどやり返してはいないわよね?」 「勿論です、私はそんな野蛮じゃありませんですよー。避けはしましたですけど」 「……こいつはあの時の女か」 ミルラが人族へ向ける嫌悪感を隠さない視線をぶつけるが、リアトリスは飄々としていて気にした素振りはない。 「そちらの人は、初めてこの村に来た時であった人ですねー確かミルラでしたっけか」 「あぁ。そうだ。何故此処に?」 「魔族を送るのに同伴しただけですよー。あ、そうでした。魔法封じ発見したんで破壊してきたですよー」 「何処にあったの?」 「木の中に隠れてましたです」 リアトリスがにこりと笑う。 「そう、有難う」 試しにホクシアは雷の魔法を放つと、それは普段と寸分の代わりもなく扱えた。 「じゃあ仲間も村へ連れてこれたことだし、シャーロアを連れて戻りましょうか」 「りょうかいでーす!」 無邪気なリアトリスに、ミルラは視線を益々鋭くするが、やはり気がついた素振りはない――否、きにした素振りはない。不愉快にも思ってない。何も――感じていない。 「あれ? ミルラ、どうしたの?」 シャーロアが魔族の子供たちと戯れている中にやってきたホクシアとリアトリスがいることは自然だ。自分を迎えに来たのだろう。 しかし、その中に普段引きこもっているミルラがいることが信じられなかった。 「ミルラも一緒にくるそうよ」 「わかったよ。じゃあいこっか」 「えぇ」 ミルラは何時も行動を共にしている白い魔物にのって、ホクシアとシャーロア、リアトリスはホクシアが呼んだ魔物に乗って移動をした。途中で降りなければならなかった行きとは違い、王都リヴェルアまでの道中は全て魔法封じが解除されていたため早く王都へたどり着けた。 魔物から降りる彼女らとは違い、ミルラは街中でも魔物に乗ったままだったので、仕方なしにホクシアたちは人目につかない道を――魔族と通る時に取った――進んだ。 [*前] | [次#] TOP |