零の旋律 | ナノ

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「リヴェルア王都に捕らわれていた魔物よ」
「襲って解放したのか?」
「いいえ。リヴェルア王国の策士と取引をしたのよ」
「取引……だと?」
「えぇ。それよりミルラ聞きたいことがあるの。シャーロア、後はお願いしてもいい?」
「うん。大丈夫だよ。終わったら来てね」
「えぇ」

 ホクシアは白い魔物に乗って運ばれるミルラの隣に並んで歩きミルラの自宅へ足を運ぶ。
 ミルラの自宅は部屋一面を本棚と溢れんばかりの本が積み重ねられている。その中の僅かなスペースに白い魔物とミルラ、そしてホクシアが座る。

「で、取引とは何をしたんだ?」
「リヴェルア王都の魔族を解放する代わりに、私の魔石を第二王位継承者シェーリオルへ渡すことよ」
「な……! そんなものは守る必要はないっ!」

 ミルラの瞳にはありありと怒りがこみ上げて来ていた。ホクシアに対してではない、そんな取引をさせた策士へだ。

「守る守らないの約束ではないわ、これは取引よ。それに、私は破るつもりないし」
「だが、お前は普通の魔石ではない。それを人族へ流通させることは」
「それはならないわ。第一私が渡すのは第二王位継承者にだけよ。ミルラ、その話はもう私と策士カサネの間で決着がついているの。貴方がいくら止めようとしても無駄よ。それで聞きたいのだけれど」
「……何だ?」
「魔徒の魔石が壊れるなんてあり得ると思う?」

 その言葉の意味を理解するのに、ミルラは数秒を要した。

「“普通”あり得ない。あいつらは魔術を使えないんだ、魔術を使えない代用品として魔法に縋っているしかない。ならばこそ、人族が魔族の魔法を超えることはない。それは事実か」
「事実よ。私の目の前で第二王位継承者が使っていた私の魔石が壊れた。大規模な移動魔導を一人で往復をやった代償としてね」
「……成程な。ということはそいつは普通の魔石で――中級程度の魔導を扱うだけで魔石は壊れるだろう」
「えぇ。よくわかったわね。壊れる所を目撃したことがあるわ」
「俺が生きてきた中ではそんな存在見たことがないな。そもそも――いや、是はいい。ホクシア、お前は今後どうするんだ? まだ人族と協力関係を続けるか?」
「愚問しないで。当たり前。此処まできた以上、魔族だけで太刀打ちできる問題じゃないわ。彼らは、私たちにとっても都合のいい存在よ。性格に問題があっても腕に問題はないし、それに――魔族をどうとも思っていない。それは好都合」
「……わかった。ホクシア、お前が戻る時は私も同伴しよう」
「え!?」
「何を驚いている。私とてこれ以上巣に籠っているわけにはいかないだろう?」
「そりゃ……ミルラが動いてくれるのは嬉しいし願ってもないことだけど、でも貴方は結界を――今でも張っているのでしょう。大丈夫なの? そもそも貴方を最前線に出すわけにはいかないのよ」
「私を誰だと思っているんだ」

 そのひと言でホクシアは何も言わなかった。否、言えなかった。


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