零の旋律 | ナノ

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「取引とは?」
「魔族を解放する代わりにシェーリオル王子への魔石を提供するようにいたしました」
「……つまりは、現状、魔石がたいして役に立たないが故に、大多数の魔導師への配給よりも、リーシェ一人へ永久的に魔石の配給を優先したということか?」
「はい。シェーリオル王子の実力を最優先にしたまでです。魔族の解放であって、今までリヴェルア王国が保管している魔石を差し出す必要はありません。他の魔導師や生活面においては今ある魔石で充分事足りるでしょう。しかし、シェーリオル王子は魔導を使う度に大半の魔石は砕け散ります。それではいくら魔石があっても足りない」

 他の魔導師や魔導は魔石を破壊しない。しかしシェーリオルだけは特別だ。

「成程……わかった。いいだろう」
「有難うございます」

 カサネは再び頭を垂れる。因みにこの場で肩膝をついているのはカサネだけだ。息子であるエレテリカは必要なかったし、魔族であるホクシアは人族に膝をつくことはない。

「それにしても魔族の少女よ、この場にくる必要はなかったのではないか」
「舐めないでもらえる。人族の王よ」
「そうか」

 王はそれ以上ホクシアへ声をかけることはしなかったし、その逆もなかった。用件が終わるとホクシア達は怱々に退室する。
 カサネはその足でリヴェルア王都が魔族を捉えている場所へ案内した。
 その場所では『魔法』を行使されないためか、口は封じられ、鉄檻の中に魔族が一人ずつ閉じ込められていた。

「まぁ、口を封じても貴方みたいな魔族ですと無意味ですけどね」

 檻を見たホクシアに対してカサネは微笑しながら説明する。それがホクシアには酷く不快だった。
 他の魔族を助けるためなら、“自分”を差し出す気持ちがホクシアにはある。それでも――この男と取引をしてしまって良かったのか、そんな思いがよぎる。

「さて、私はカサネ・アザレア。王の代理で参りました。是は王の命令です、魔族を全て解放しなさい」

 一斉にどよめきが起こる。動揺が波紋のように広がる。しかし、隣に並ぶ王子エレテリカ、そして命令を下した本人である策士、金の瞳をもつ少女がいることが、その命令が嘘でないことを如実に伝えていた。何より、カサネの鋭い視線に逆らえるものは誰もいない。怜悧な頭脳を有し、策士として第三王位継承者の側近であるカサネは王子の邪魔をするものは誰だろうと容赦なく裏で殺害をし、隠蔽工作を得意とし、誰もカサネまではたどり着けない、そんな噂が流れるカサネに誰が逆らえるというのか。
 彼らは魔族を檻から出して解放する。魔族は困惑しながらも、同じ魔族である檻の外にいたホクシアへ寄っていった。
 ホクシアは解放された魔族を村へ連れて行くと言いだしたため、一旦アーク達が止まっている宿へ秘密裏に移動する。数多い魔族を見つからないように移動させるのは中々に困難だったが、騒ぎが起こっていない所を見ると、魔族だと街の人族に知れ渡ることはなかったのだろう。
 ホクシアはすぐにでも村へ戻りたかったが、シェーリオルのような大規模移動魔法が使えない以上、魔物で移動するのが最短だ。そうなると『魔法』がきかない範囲に入った場合、ホクシア一人で対処しきるには聊か大変だ。何せ守るべき魔族を守りながら敵意を向けた魔物を殺さなければならないのだから。ホクシアがそれで死ぬことはないだろうが、魔族を守りきれるかは別の問題だ。

「誰か、ホクシアと魔族たちに同行してもらえますか?」
「じゃあ、私が行く……!」

 シャーロアが真っ先に手を上げる。一瞬ヴィオラは眉を顰めたが、しかしシャーロアの真剣な表情を見て何も言わなかった。

「では、シャーロア一人では心配ですからもしあれでしたらついていきますですよー?」

 リアトリスの申し出に、ホクシアは頷いた。そうして、魔族の村へはホクシア、シャーロア、リアトリスの女性三人が赴くことになった。


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