V +++ 「そういや、リィハは?」 今気が付きました、といった顔でアークは部屋のどこにもいないハイリ・ユートの存在を今さら問う。カサネとエレテリカ、それにホクシアは王城にいるため現在はいない。 「あぁ、リィハでしたら誘拐されましたですよー」。 「は?」 リアトリスの答えにアークは首を傾げる。確かにリィハなら誘拐されても不思議ではない程に弱いがしかし――と考え出したところでリアトリスが言葉を続けた。 「カサネがですね、リィハに怪我人を治療しろって命じて貰って行かれましたんですー」 「へぇ。まぁそれにしてもよくリィハが動いたな、策士様ってのはやっぱ儲かるのか?」 ハイリ・ユートは治癒術師としての腕前は一級品だが、しかし値段も一級品で法外といっても間違えではない。 怪我人を治療しろ、ということは一人ではなく複数だろう。そうなればハイリが要求する金額はとてつもないものになる。 「無料ほーしですよ」 「は? あのリィハが、か? 策士様のことだ、怪我人ったって軍人だろ? 軍人をリィハがただで治療するとは思えないが」 「『この状況において、金銭を要求するのような人でなしがいたら嫌ですよね、魔族と人族は利害が一致したから手を組んでいると言うのに人族内でもめ事を起こす原因を態々作れる人がいたら凄いですよね、そんな人間がいたら……』云々のようなことをリィハに向かって笑顔で脅していましたんですよー。リィハ、顔真っ白な勢いで面白かったですよ。で、リィハは無料ほーしすることになったんです」 「成程な」 「まぁカサネがいった台詞はうろ覚えですから、実際はもっと辛辣でしたんですけどもねー」 あの時の光景を思い出したのか、リアトリスは思い出し笑いをした。 +++ 王城の廊下を悠々と歩く人物に彼らは驚愕する。 策士カサネ・アザレアと隣に並ぶ第三王位継承者エレテリカ・イルト・デルフェニが並んでいることは、全く問題がなかった。 しかし、警備兵を驚愕させたのは二人と一緒に並んでいる金髪金眼の――魔族の少女がいることだ。 「か、カサネ様? これは一体……」 「王は何処に?」 「玉座におられます」 敬礼しながら警備兵が告げると、カサネは警備兵の質問には答えず早足でその場を抜けて行った。 ホクシアは常に周りを警戒していた。人族からは驚愕と敵意や殺意の瞳を向けられている。 それは当然だろう。魔族にとって人族が憎いように、人族にとっても魔族は憎い存在なのだ。 玉座がある扉の前でカサネは扉を三度ノックした後、肩膝をついてから扉を開けた。頭を垂れてから、室内に入る。 「どうした」 現リヴェルア王国国王はカサネの隣にならぶ魔族の少女を一瞥した後、カサネとエレテリカの方へ視線を向ける。 「魔族と取引をしました。王都リヴェルアにいる魔族を解放して下さい」 ホクシアはやや意外だった。魔族解放を持ちかけたのはホクシアだが、てっきりカサネが直接命令で魔族を解放するものだと思っていた。 しかし、カサネは国王に許可を取りに来たのだ。 [*前] | [次#] TOP |