零の旋律 | ナノ

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 二時間ほど歩きまわったがローダンセ・クレセントを見つけるには至らなかった。昼時、小腹がすいたなとアークは店を探すが、アークの好みにあいそうな店は一件も見つからない。否、見つかるはずもない。
 店があっても何処も廃れている。営業はしているが、人だかりは余りみない。
 アーク好みの店を探すのならば、貴族街に移動しなければない。
 仕方なく、アークは昨日いった酒場を目指す。まだ開店準備中の札がかかっていた。
 酒場だし夕刻にならないと開かないかとその場を後にしようとした時、声がかかる。

「アーク。どうしたのかしら?」

 酒場の店員カルミアだ。アークは声がした方を振り向く。

「昼飯を食べられる場所を探している」

 素直に目的を答える。

「そう、なら食べて行くといいわ、マスターはまだきていないけれど私がいるし。食事くらいなら出すわよ?」
「じゃあ頼む」

 他に目ぼしい場所もないアークはカルミアの好意に素直にお邪魔することにした。
 店の中は何処となく薄暗い。

「暗いな」
「節電よ。無駄にお金はつかえないからね、特にこの王国では」

 軽く会話を交わした後、はい、といってオムライスをアークに渡す。

「さんきゅ。まぁそうだろうな、此処が普通に酒場としてなりたっているのが不思議なくらいだ」
「憩いの場も必要でしょ? 憩いがなければしんどいものね。それに料金は安くしているから」
「ん? まて、俺は昨日相場相応の額をとられたぞ」

 相場相応の額だったため、気にしなかったが安くしていると言われれば疑問がわく。

「観光客に対して安くする必要はないでしょ? とれるところからはとらないと。それよりぼったくらなかっただけ優しいと思ってほしいわ」

 事も何気にいうカルミアにアークは苦笑する。その会話はとても昨日知り合ったばかりとは思えない。

「それもそうだな。まぁいいさ。カルミアとは話もしたかったしな。誰もいないならなおさら丁度いい」
「何かしら、って目安はつくけれども。だから態々アークをこの店に入れたわけだし」
「なんでアルベルズ王国にいるんだ? 此処で生活をしなければいけないお前でもないだろう」

 カルミアは髪を軽くかきあげる。その動作は優美だった。

「リヴェルア王国にいても良かったんだけどね……ちょっと色々あったのよ」

 元々カルミアはリヴェルア王国出身者であった。最もアルベルズ王国内でそのことは伏せている為、マスターも常連客も知らない。

「相変わらずのお節介か?」
「さぁ、でもこの国は腐っているわ」
「そうだな」

 貴族が潤う為に、下のものを顧みることはせず、犠牲にしている。自分たちが人であり、他の元はただの消耗品としかみない国。

「でもね、私は……現状を嘆きながらも受け入れ、行動を起こさない人に手を貸すつもりはないわ」
「そうだろうな、お前はそういうやつだ。優しい癖にどうしようもなく残酷なんだ」
「否定はしないわ」

 オムライスを一口口に含むと、半熟の卵の味わいが程良く美味しかった。料理の腕前で言うのならば、レインドフ家で雇っている執事やメイドよりも上だ。

「料理上手なんだな」
「まぁ料理は好きよ。依頼は……彼ら市民にとって酷なものかしら?」
「……あぁ」
「そう」
「アンタは俺を止めようとするか?」

 この国を変えたい志を持ち、恐らくは腐った階級社会を変えようとしているローダンセ・クレセントを殺す。そういった依頼をアークは受けた。殺せば恐らくは唯一の希望を奪うことになる。
 しかし、アークは情や憐れみを覚えないし、覚えた処でアークは依頼を放棄することはしない。


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