零の旋律 | ナノ

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 その頃サネシスは魔物に襲われるリスクを考えた上で、それでも魔物に乗っていた。時間が惜しいからだ。
 魔族の村の状態を一秒でも早く確認したかった。
 村に近づいてきた所で、今まで従順だった魔物が牙をむいて暴れ出した。魔法封じの領域だとすぐさま判断して懐に入れていた拳銃を抜き取り、素早く脳天を打ち抜いた。村までの距離はさほど遠くないとサネシスは走り出す。途中に魔法封じの装置があれば破壊しようと思ったがそれらしいものは発見できなかった。
 村へ到着していた時、真っ先に目にしたのは入口を守護神のように守っている二体の魔物だった。

「ご苦労さん」

 ――やはり、ルキの魔物は魔法の影響を受けなくとも、ルキの友達か。
 内心、こんなことがあるのならば、一体くらいは友好関係を結んでおくべきだったかとサネシスは自嘲する。村の中を歩くと程なくしてルキが走ってきた。

「お帰り!」
「ただいま。状況は?」
「魔法が突然使えなくなった。何が起きたの? それにミルラも突然倒れて……今はもう大丈夫っていって普段通りにしているけど、でも何処か無理をしているような……」
「わかった。サンキュ。お前は今まで通り頼んだ」
「うん」

 サネシスはミルラの元へ急ぐ。やはり、術が解けた反動を食らっていたのだ。
 住居の扉を乱暴に開けると、魔物を枕にして横になりながら本を読んでいる普段通りのミルラがいて、思わず安心した。体調が万全でなくとも――生きていたから、否、ルキの言葉から生きていることはわかっていたがそれでも聞いただけ、と目にしたのでは違う。

「慌ただしい……少しはゆっくりと開けられないのか?」

 人族――アークたちと対面した時とはまるで別人のような柔らかい表情とおっとりとした声色でミルラはサネシスに声をかける。

「ミルラ、大丈夫か?」
「大丈夫だ」
「……嘘だろ?」

 ヴィオラすら魔術の反動が解けるまでに時間を有したのだ。ヴィオラ以上に結界の役割を担っているミルラが平然としていられるはずがない。

「……私の言葉を信じていないな。私を誰だと思っているのだ? 安心しろ。微弱だが、まだ結界は働いている。が、常に結界を破壊しようという動きは感じられる。私の状態を見に来るよりも優先すべきことはあると思うが?」
「そりゃ……そうだが。ってまだ結界働いているのか? 解除しろ!」

 サネシスはミルラに詰め寄る。結界が働き且つ結界を破壊しようとする攻撃があるのならば、それはミルラにとって芳しくない状況のはずだ。
 結界の防御を凌駕する攻撃を加えられればその反動を受けるのはミルラだ。

「解除しろって。それは魔術師に侵入して下さいと両手を広げて歓迎するようなものだぞ?」

 ギラリ、と温厚だったミルラの瞳に殺気が宿る。

「それは御免だ。私は魔法の反動ごときで死ぬわけがない。お前は私の心配をするな、他の仲間の心配をしろ」
「ミルラ一ついいか? 魔法封じは魔法を全て封じるが、大魔法クラスの魔法だと完璧には封じられないのか? それとも――封じる力をお前が上回っているのか?」
「両方だ」

 さらりと答えるミルラにサネシスは苦笑するしかなかった。元々ミルラとサネシスでは生きている年数も桁が違う。

「わかった。じゃあ俺は他のことをする――だが、くれぐれも無理はしないでくれよ」
「それは私の台詞だ」

 魔族に接するミルラは温厚で優しさが溢れている。

「はは……」
「流石にユリファス全てを魔法封じされれば、私とて簡単な魔法が扱える程度になるのだろうが、そうならない限りは問題ない。魔法が使える場所を経由して魔法を扱えば、普段の威力には到底及ばないがそれでも魔法は仕える。ヴィオラの魔術反動を引き受けたのはヴィオラの身を守るためだ。私なら死なないが、全て魔術反動を受けていればヴィオラはどうなっていたかわからない」
「ヴィオラは駄目でもミルラは大丈夫ってほんと規格外だよな」
「だから私のことは心配するだけ無駄だ、他のことを心配してやれ」

 ミルラが優しい手つきでサネシスの頭を撫でる。まるで子供に対して接するような振舞いに、サネシスは慌てて手を払う。

「俺はもう大人だぞ!? そんな子供扱いはしないでくれ!」
「何を言っている。私からしたらサネシスもホクシアもまだまだ子供だ。大人と認められたければせいぜい後二百年は生きてから言ってもらおう」
「……下手したら死んでいるんですけどな」

 そういってサネシスは安堵から笑った。


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