零の旋律 | ナノ

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「白銀の終末へ導け」

 澄んだ声が響いた。音楽を彩る旋律のような声だ。
 白銀の魔法陣が辺りこの部屋一体を覆うほどに巨大化する。

「何だ?」

 カイラが首を傾げる。『魔法』に詳しくないカイラだが、それでも悪い予感しかしなかった。一体に出来あがった魔法陣の攻撃範囲は全てで逃げ場すらない。

「ちっ――!」

 シェーリオルの珍しく焦った表情がカイラには映った。シェーリオルは髪留め以外に所持していた魔石を素早く取り外してありったけ放り投げる。無数の魔石が輝き、魔石同士を繋ぎ止める黄金の細い糸が具現する。一つの繋がりとなった魔石は白銀の魔法陣と同等の魔法陣を作り出し、そして白銀の魔法陣の効力を上書きして無効化した。

「なっ――私の魔術を一瞬で上書きして無効にするなんて!」

 流石のアネモネも驚きを隠せず声を荒げる。
 シェーリオルが宙へ放り投げた魔石は魔導が発動すると同時に全て砕け散って消え去った。

「……」

 シェーリオルの額に汗が流れる。

「大丈夫か?」

 カイラの言葉に返答はない。
 ヒースリアはその様子を横目に華麗に銃を扱う。音の無い銃弾に魔術師たちは翻弄される。
 
「さぁ、氷の殺戮よ、万物を無残に砕け散れ!」

 その時、ヴィオラの詠唱が終わった。
 発動された青の魔法陣はヴィオラと、そして魔法封じを繋ぐように具現する。

「結界を!」

 すぐさまアネモネが他の魔術師に指示をしようとして――自分で重ねるように結界を作り出した。結界を貼っている魔術師二人では凌ぎきれないと判断したのだ。
 殆どの魔術師が地にふしていたし、生きている魔術師は他の相手で手いっぱいだ。
 魔術師ではないが王とて同様だ。いつの間にか王の相手は二人へ増えていた。
 二人の魔術師が最初に張った結界は脆くも壊れ去り、そして軍師アネモネが即席で作り上げた結界もまた守りきることは叶わずに砕け散った。
 魔法封じを包み込む絶対零度の氷にひびが入り、そして――ユリファス全土を覆うはずだった魔法封じは無残にも砕け散った。
 氷に包まれたそれは、形を残すことなく消え去って行く。
 跡形もなく魔法封じは破壊された。

「ふざけるなっ!」

 アネモネが声を荒げる。ヴィオレットは思わず手が止まる。王ルドベキアの攻撃がさらに激しくなる。
 その時、全ての攻撃の音よりも響く美しき音で

「俺の周りに集まれ」

 シェーリオルが叫んだ。
 条件反射のように彼らは集まる。他を寄せ付けない一瞬の出来事、帝国の人間が動くよりも早く、黄金の輝きに溢れるそれが姿を現す。金銀財宝どの輝きよりも勝る光だ。
黄金の光は魔法陣を瞬く間に作り上げ、彼らを包み込む。黄金の光がはじけ飛ぶように拡散した後には何も残らなかった。

「逃げられたかっ……!」
「……ほんと、規格外の王子様」

 悔しそうにアネモネが、気だるそうにヴィオレットが、そして無言で消えた場所を睨む帝王ルドベキアだった。


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