V +++ その頃、王城で、イ・ラルト帝国の王は玉座につきながら続々やってくる魔法封じを製作していた研究所へ侵入者があったという報告に顔を顰めた。 隣に立つ軍師の表情も険しい。 裏の裏を描かれ――否、相手の力量を見誤ったばかりに起きた事態だった。 魔族の魔法を行使しても、敷地内には侵入出来ないだろうと判断したし、それは合理的な判断だったと胸を張って言える。 まさか『魔導師』の手によって侵入を許すとは誰が予想しただろうか。 「あの王子の奴が……」 王は苛立たしげにため息をつく。報告によれば研究所へ侵入した人数は多くはない。 しかし、だからこそ油断は出来ない。少数であれば間違いなく少数精鋭だろう。 その中には軍師の報告によれば魔術師も混じっている。 魔術研究をしている帝都まで魔法封じを発動して魔法を封じてしまうことは出来ない。 「どうしますか?」 「俺が出る」 「わかりました。では、私もお供いたします。正面からではあれですので、抜け道から行きましょう」 万が一の時に備えて、研究所には抜け道が設置されていた。正面には謎の銀髪二人組が妨害をして侵入出来ない。仮に銀髪二人組を排除するにしても、余程のてだれであろう二人を相手にするのは時間を無駄に浪費するだけだ。 「当たり前だ」 それは両方の言葉に対しての返答。 王は玉座から立ち上がり、玉座の隣に立てかけてある宝刀を手にする。 ずっしりと来る重みだが、王にとってそれは自分の身を守る頼もしい重みでしかない。 軍師は王の一歩後ろ隣に並ぶ。 +++ 魔術師たちが放つ魔術はどれも強力なものだった。 魔法封じの装置を作るための研究者として優秀なものたちが揃っているのだろう。 だが、それとて本来ならばシェーリオル程の魔導師には及ばないのだ。 しかしシェーリオルとしては魔導を温存して置きたかった。 此処から撤退する時に――移動魔導を使うのに必要なのだ。 だから、結界を作り出して魔術を大々的に弾くことはしなかった。一緒に行動をしている面々は腕が立つ。 戦闘に特化した彼らには守る盾は不要。攻める矛させあればそれで事足りる。 「おいおい。全く持って……」 ヴァイオレットは面倒そうに改造銃を発砲する。途端に光線が一面を覆い光の銃弾が無数に襲いかかる。 「はははっ」 楽しそうな笑い声が聞こえてきてヴァイオレットはため息をついた。笑い声の主を聞いたことがある。始末屋アーク・レインドフだ。戦闘狂だという彼は、好敵手と戦えることが何よりも楽しいのだ。 アークに限らず他の面々は眩しい視界の中で――視力を当てにせず感覚のみで全ての光の銃弾を交わしきる。 尤も――体術も出来るとは言え魔導師が本分であるシェーリオルだけは、自分の周りだけ仕方なしに結界を貼って交わした。下手に怪我をするよりは魔導を使った方がいいと判断したのだ。 交わせるなら交わすが、交わせないなら自分の身を守るためだけに魔導を行使することが、移動魔導を使うためには一番確実だ。 [*前] | [次#] TOP |