零の旋律 | ナノ

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 研究施設内に乗り込んだアーク達の背後から、事態を聞きつけた兵士が襲ってくることはなかった。ヒースリアとジギタリスが兵士を足止めしているからだ。
 あの二人がいる以上、背後の敵に気を取られる必要性は皆無だ。
 アーク達が走って行く途中、何事かと混乱する研究者たちに出会う。それをアークは奪った銃の引き金を引いて一撃で仕留めていった。他の面々が出る暇すらない。
 扉の前に立つと、そこには複雑な文様の魔法陣が輝いていた。

「結界か」

 シェーリオルが前に立ち、その紋様を指でなぞると、たちまち結界は解除される。その代償に胸飾りにしていた魔石が輝く当時に無残に砕け散った。

「……リーシェ?」

 ヴィオラが疑問に思うが、シェーリオルはその疑問には答えない。
 扉を開けると、そこに広がる光景にヴィオラは顔を顰める。複数に展開される術式を組み込んでいるそれは間違いなく魔術だ。
 魔術師たちが魔術を込めることで魔法封じを生成している。その数およそ十人余りだ。手慣れた手つきから、以前より――恐らくレス一族が滅んだ時に紛れ込んだ魔術師たちだろう。

「何用だ?」

 そこへ気だるげな表情をした研究者の一人がやってきた。やや猫背でポケットに手を突っ込んだままの体勢。そしてこまめにつけ外しが面倒なのか首に巻いたままのマフラー。
 それらはヴィオラにとって忘れられない容姿であった。

「ヴァイオレット!」

 ヴィオラが叫ぶ。事情を聞いていたシェーリオルやカイラはこいつがヴァイオレットかと視線を鋭くする――尤もカイラはサングラスをしているが故に瞳の表情を伺い知ることは出来ない。アークだけは、手持無沙汰に銃を回して遊んでいた。

「レスか。全く此処に乗り込んでくることは想像出来たから、外の警備を厳重にしていたのに、全くいきなり中に乗り込んで来るか? そこの――魔導師の仕業なんだろ?」
「見ていたのか?」
「あぁ。そもそもリヴェルア王国からイ・ラルト帝国までの距離がどれだけあると思ってんだよ。移動魔導で来るとか、ほんと噂通り――いや、噂以上に規格外な王子様だ」

 研究者ヴァイオレットは忌々しくはきすてる。
 リヴェルア王国がイ・ラルト帝国に襲撃してくるのは、容易に想像がついた。だからこそ裏を描かれないよう重点的に警備を置いていた。そして帝都には一番の人数を割いていた――外の外壁に。
 それらを無視していきなり内部へ侵入されるとは想像していなかった――否、不可能だと確信に近いものを抱いていた。
 それなのに、リヴェルア王国第二王位継承者シェーリオル・エリト・デルフェニは可能にしてしまったのだ。恐ろしいと率直にヴァイオレットは思う。
 魔術を生まれつき操れる自分よりも魔法の所詮偽物である魔導を扱うのに――技量は上だと否応なしに実感してしまう。

「お褒めのお言葉光栄だ」
「褒めてねぇよ。それにお前だけじゃなくて外にいる銀髪二人組のせいで中に兵士が入ってこれない状況とある。なんだよこの状況」

 悪態をつきながらヴァイオレットは改造した拳銃に手をかける。他の作業に追われていた魔術師たちもヴァイオレットの隣に並ぶ。

「さて、仕方ないから不審者を排除するか」

 まったりとした号令と共に魔術師たちは動き出した――。


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