零の旋律 | ナノ

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 翌日アーク・レインドフは明朝と共に動き、現在アルベルズ王国貴族の一室にいた。
 客間に通され、高級な洋菓子と紅茶が用意される。
 一級品のソファーは座り心地抜群で、座っているだけで眠気が襲ってきそうだった。座り心地だけを比べるなら、船の一等部屋よりも格段といい。

「で、依頼とは?」

 おもむろにアークが口を開く。まだ洋菓子と紅茶には手をつけない。

「反乱分子の始末をして欲しいのですよ」

 端的に告げる。貴族の男性は四十代中頃。ふくよかな体型が暮らしぶりを現している。
 身につけている宝石類も一々豪華で、その派手さをアークは余り好きになれない。最も依頼と個人的感情は別物だ。

「反乱分子とは?」
「この国に対して不満を持っている輩がいましてね、そいつを始末して欲しいのですよ」
「……詳しく伺いましょうか。それに反乱分子を始末するだけなら、何も他国の私に頼らなくてもいい」

 この国の力を用いれば反乱分子を始末する程度朝飯前だろう、アークはそう思っている。
 絶対的な階級制度による支配。謀反は許さない厳戒態勢。反乱分子を、自らの地位を陥れる恐怖ある存在を王族や貴族が放置するはずがない。存在を認識していながら、今まで手をかけていない方がおかしいのだ。

「理由は勿論ありますよ。我々の安寧な暮らしを脅かすものの名前はローダンセ・クレセント。この者が曲者でしてな、我々が捕えようとしても力でねじ伏せられるのですよ。力を持った狂犬は危うい。これ以上我が国を脅かす前に始末したいと思いまして」

 だからこそ始末屋として有名なレインドフ家当主をアルベルズ王国に呼び寄せた。ローダンセ・クレセントを始末すれば、自らの手柄としてさらなる地位を築ける。アークは内心苦笑し、見下しながら依頼は誰であろうが受ける。報酬が対価として相応であれば。

「成程、では引き受けましょう」

 目の前に提示された対価にアークは二つ返事で頷く。
 その後ローダンセ・クレセントの詳細をさらに聞き、洋菓子と紅茶を飲みほしてから屋敷を後にする。
 アルベルズ王国は王家を中心とし、その周辺を囲むように貴族街と呼ばれる貴族が住む街がある。
 貴族街は王家に近い位置にいる程、その権力が高く、逆に市民街に近い程貴族としての地位は下になる。明確過ぎる階級社会が如実に現れている。市民街と貴族街の境目は門番が待機しているが、通行権や身分証の類が必要なわけではない、出這入りは自由だ。最も、門番が怪訝に思った場合、その者の通行を禁じる事は可能だ。
 アークは元々身につけている身なりがいいせいもあって、門番から咎められることもない。
 市民街と貴族街は街として雲泥の差といっていい程、雰囲気も、建物も景色が一変する。

「……」

 アルベルズ王国にアークは何度も足を運んだ事があるわけじゃないため、地の利がない。
 アルベルズ王国の市民街でローダンセ・クレセントを探しにふらつく。
 容姿は予め詳細を教えられていた。そして懐には本人か確認するための写真がアークに手渡されていた。
 写真を見ながら歩くわけにもいかず、写真は仕舞ってある。


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