零の旋律 | ナノ

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「利益ですって!? ……兎に角、同胞を解放しなさい」

 ホクシアは素早く流れるように刀を抜き。その刀身をカサネの首元に当てる。

「……いいでしょう」

 カサネは刀に屈したわけではない。その表情は残酷なほど不気味な笑顔を浮かべていたからだ。

「但し、条件として――シオル……シェーリオル・エリト・デルフェニへは魔石の提供を惜しまないこと。それを飲むのでしたらいいですよ」
「……どういうこと?」
「シェーリオルは間違いなくリヴェルア王国で最強の魔導師です。魔法封じが聞かない場所に置いて、人族でシェーリオル程魔導に秀でた存在はいない。その彼が、魔石がないばかりに魔導を使えない、そんなことがあっては困るからですよ。普通の魔石では――代用品にすらならない」
「わかったわ。その時は私が、私の魔石を上げるわ」
「交渉成立ですね」

 にやりと笑ったカサネに、ホクシアは最初からこの交渉を持ちかえるために素直にカサネは魔族を解放しなかったことを悟った。
 カサネは他の何百人という魔導師よりもたった一人の魔導師が『魔導』を行使し続けられる方法を選んだのだ。
 王都リヴェルアが捕えている魔族が例え何十人解いたところで、彼の魔導へ耐え切れるだけの魔石を作り出すことが可能な存在はいないだろう。何せ魔導師シェーリオルの魔導に耐えられる魔石は、『魔徒の魔石』しかないのだから。

「で、どうやって帝国までいくんだ? ヴィオラに魔物を操ってもらうのか?」

 話がまとまったところでアークが疑問を投げかける。

「いいえ、それでは目立ちます。別の方法で行くに決まっているじゃないですか。さて、他の面々はどうしますか?」
「俺は同行しようかな」
「王子は……すみませんが、私と行動を共にしてくれますか? 王族二人も帝国へやってしまうわけにはいきませんから。エリーシオも今は各地を奔走していますし」
「わかった」

 エレテリカは素直に頷いた。何よりカサネの役に立てるのならば帝国へ赴かずとも良かった。
 それにシェーリオルが出向くというのならば――シェーリオル自身は何も言っていないが――エレテリカが行く必要もないだろう。

「リィハ。お前は置いていくからな」
「は!? 怪我したらどうするんだ?」
「足手まといだ。リィハの治療が必要な程大怪我をするやつなんてリィハ以外にいないよ」

 アークにそう断言されたのでハイリもこの場に残ることになった。

「私は行きませんですよー。カトレアが心配ですし」
「じゃあ、シャーロアとカトレアを頼んだぞ」

 リアトリスの言葉にヴィオラはシャーロアを守ってと頼む。リアトリスはそれを快諾する。
 シャーロアは同行する気だったのだろう、やや驚いていたがやがて自分自身を納得させた。

「私たちはどうする?」

 ジギタリスがカイラを指差しながら問う。

「貴方達は元々帝国に住んでいるので、好きにしてくださいといいたいところですが、此方に選択の権利があるというのならば、帝国へいって協力して下さい」
「わかった」
「あぁ、念を押しますがヒースリア、貴方は勿論アークへついていってくださいね」

 二コリとカサネが言い出したのでヒースリアは舌打ちをするが、反論はしなかった。

「じゃあ、行くぞ」

 話がまとまった以上、長居する必要もない。そうシェーリオルは判断した。
 全員がどうやって移動するんだ? そう問いかけようとしたがそれよりも早くシェーリオルが腕を頭上にかかげると、黄金に輝く無数の魔法陣が展開された。

「さぁ、シオルの元へ行く人は集まって下さい」

 カサネが告げたので、彼らは驚愕しながらもシェーリオルの元へ集まる。
 途端、頭上に展開された魔法陣がゆっくりと下降にしながら彼らを包み込む。
 頭上に展開された魔法陣が全て、下降した途端、彼らの姿は消えていた。

「うそでしょ……」
「移動魔導だと!?」

 魔族の二人は驚愕するよりも他なかった。彼の魔導力量は大半の魔族をも凌駕している。今さらだが、再認識するしかなかった。術ではサネシスやホクシアは彼に勝てない、それを実感した。


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