零の旋律 | ナノ

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「……わかりました。ならばその装置、いえ研究所を破壊しましょう」

 さらりと大胆な結論を述べるカサネだが、事実魔法封じを防ぐすべはそれ以外ない。

「だが、大丈夫か? リヴェルアを警戒しているだろうし」
「大丈夫です。今なら、“まだ”ね。アーク、貴方は当然帝国へ行きますよね? 魔族から依頼を受けているようですが、もしも私の策が依頼の範囲外だというのならば私も依頼料を払います。ですから、今は従いなさい」
「はいよ」

 気軽な声でアークは返事をする。事の重大さを理解しているのか怪しくなるような返事だがカサネは気にしない。

「魔族はどうしますか? 帝国へ行きますか? 今のところ魔法封じは中にさえ入ってしまえば問題ないようですし」

 サネシスはちらりと視線をアークへ移す。出来ることならば魔族――味方も同伴したいところだが、しかし問題もある。

「いや、俺は一旦魔族の村へ戻る。村がどうなっているのか心配だ」

 結界を担っていた――ヴィオラ以上に――ミルラの存在が気になる所だった。いくら、大丈夫だろうと思っていても心配な気持ちまでは抑えられない。
 帝国へは始末屋レインドフに任せて自分は村に戻るべきだと判断したのだ。
 アーク・レインドフがいる以上“失敗”は想像できない。ならば不本意ならが人族に任せてしまえばいい。

「俺はアークについていってもいっすか?」

 ラディカルがやや遠慮がちに手を挙げる。

「むしろそうしてくれ」

 サネシスの言葉に、ラディカルは内心嬉しかった。同行することを推奨してくれたということは、魔族として味方として認められていることだ。

「ホクシアはどうしますか?」
「……私も帝国へは行かないわ。カサネ・アザレア」
「なんですか?」
「王都リヴェルアが捕まえている魔族を解放しなさい」

 淡々としながら、地を這うような――少女の器の何処にそんな威圧感があったと言えるほどの存在感でホクシアはカサネに言う。

「何故ですか。その必要はないと思いますよ?」

 対するカサネは見下したような嘲笑を浮かべる。

「魔法封じが各地に展開されている今、魔石の研究や魔族を捕えた所で意味はないはず。ならば此方に魔族の同胞を返しなさい。魔族にまで貴方たちは何れ構っていられなくなるわ」
「確かにそうでしょうね。しかし、だからなんですか? そもそも私に魔族を解放させるだけの権限なんてないですよ」
「権限はないかもしれないことは否定しない。けれど策士として有能な貴方がこの状況でそれを提言すれば、それが――勝つための手段だとでもいえば、飲まざるを得ないでしょう?」
「否定はしませんよ。けれどもそれをしても私たちに利益はない」

 “利益”その言葉にラディカルは以前思った感情は思い違いも甚だしいことに気がついてしまった。途端怒りが湧きあがってくるが、それを辛うじて理性が押しとどめる。
 魔族の血をひいているカサネ・アザレア。だからこそ策士の立場になっても魔族へ味方する言動はしなかった、それは自分の身を守るための手段だからだ。そうやってカサネを問い詰め冷静になった時に自分で考えて納得した。
 だが、実際は違ったのだ。カサネは単純に“魔族”という存在をなんとも思っていない。
 彼は魔族の血を引きながらもその存在は人族の味方なのだ。
 尤もそれはラディカルが感じた答えであって、ラディカルよりも遥かにカサネの存在を知っているシェーリオルからすれば、カサネは人族という大枠の味方ですらない。カサネはエレテリカの味方でしかないのだ。


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