Y 果たして――それは目標を寸分の狂いなく打ち抜いた。実際にはジギタリスが狙った地点の方が僅かにだが、遅れて――それは距離の差があったが故に当然のことだ。 魔法封じの装置は建物の屋上に位置していた。 建物に屋上があるものは王都リヴェルアにはそもそも少ない。故に狙撃するには絶好のポイントではあったが、しかし当然のことながら、狙撃には最新の注意を払っていたはずだ。 だが、彼らは予想しなかった。無音の殺し屋という銃の扱いに長けたリヴェルア王国では有名な殺し屋がいることを。 そしてその腕前は、彼らの予想を遥かに超えた位置から狙撃出来ることを。 知っていれば、そもそも狙撃が可能なポイントを全部抑えていたに違いない。 魔法封じが解かれた瞬間に、シェーリオルが結界を展開する。螺旋上に渦巻きながら、結界は魔法封じがあった場所を隙なく覆った。 結界は当然アークたちをも閉じ込める結果になったが、それは問題ない。 シェーリオルは結界を貼った後、見晴らしのいい場所で確認するために場所を移動する。 「なぁ、薔薇魔導師様はなんで……」 「……薔薇魔導師様って呼び名止めてくれないか」 「じゃあ薔薇様は」 「却下!」 「えー素敵なニックネームが思いついたと思ったんすけど」 「やめてくれ。薔薇様とか薔薇魔導師様とか、なんかもう着飾りすぎだろ」 「そんな外見しているんだから諦めるといいっすよ」 薔薇魔導師様も、略して薔薇様もどちらも御免だった。鳥肌が立つような気分になる。そんな呼び名を公衆の面前でされたら奇異の目にさらされることは間違いない。 尤もシェーリオルの外見から納得される可能性もあるのだが、それは本人が認めないし思いもつかないことである。 「で、話戻すけど、なんであの策士様と一緒にいるんすか?」 それは、カサネが魔族の可能性を知っていて――王族が一緒にいることが信じられなかった。 以前、カサネ・アザレアが魔族の血を引いているのではと疑い刃を向けた時、シェーリオルは怪我を負ったカサネを庇った。カサネが魔族の血をひいていると知った上で。 それが、王族なのが意外なのだ。 今、こうやって魔族と共闘していることが本来ならばあり得ないことだ――リヴェルア王国の歴史から言って。 「そりゃ、共犯者だからだ。カサネは……カサネの目的を達成するのに一人では無理があるって判断して俺に協力を仰いで、俺はそれに同意した。それだけの話だ」 「……王族が、魔族の味方をするなんてあり得ないだろ」 「それは、今までの歴史としてか?」 「当たり前じゃん」 「……それでも、そんなものは今までなかったかもしれないだけで、是からもあり得ないことの保障には何処にもない」 「そんなもんなんすかね」 「そんなもんだ。お前が半魔族であり、それが人族にばれるのを恐れていたって、気にしないやつは気にしないんだよ」 それが、例えば始末屋アーク・レインドフのように。執事のヒースリア・ルミナスのように。 だが、それは一握りの存在で、さらに言えば例外的なのだ。 「……」 「いつか、諦めなければ理解者にぐらい会えるさ」 シェーリオルは見晴らしのいい場所から、目下目についた帝国の人族を、魔導で華麗に昏倒させる。やはり、狙撃に適した場所は抑えていたか、と確信する。 彼らがA地点とB地点を解放すれば、リヴェルア王都は一応、魔法封じの危険から脱することが出来る。後は新たな魔法封じが展開されないようにするだけだ。 尤も、今は各地で魔法封じが展開されている、楽観視は禁物だ。 「どうでもいいっすけど、やっぱり薔薇……王子の実力なら俺必要ないよな」 ナイフを握る隙もないと、ラディカルは乾いた笑いをする。シェーリオルはラディカルがナイフを触るよりも早く、詠唱も唱えずに魔導を行使するのだ。術が発動されるまでの早さは、やはり異様としか言いようがない。 魔族であるラディカルは魔法を扱えるが、腕前はシェーリオルの魔導の足元にも及ばない。 「そうか? 結構頼りにしているぞ。魔導が何時使えなくなるとも限らないんだ。いくら武術の心得があるからといって、それだけじゃいくらなんでも心細い」 それが本心なのかラディカルには見抜けない。何故ならば確かにシェーリオルが扱う魔導と比べると天と地ほどの差があるかもしれないが、それでも並大抵のものであればシェーリオルに傷一つ負わせることすら出来ない腕前を誇っているのだ。 「まっ、死力は尽くしますけども」 [*前] | [次#] TOP |