零の旋律 | ナノ

V


「……レインドフ家って腹黒執事だけじゃなく、空気読めない少女も戦えたんすか」

 ラディカルは呆れるべきか、感心すべきか――そしてラディカルも思い当たることが、ヴィオラ同様あり、額に手を当てたくなった。
 そもそも、アークはうっかり今までの執事を殺してしまったから新しい執事――ヒースリアを重宝しているのだ。ヒースリアの腕前ではそう簡単には殺せない。それはすなわち執事だけに適応されるとは限らないのだ。
 そもそもメイドの数だって二人と少ない。ならば、そのメイドが戦闘可能だということも考慮に入れても何も不思議ではない。
 カトレアが非戦闘員なのは、非戦闘員であるが故に殺されることがなかったと過程することは出来る。
 非戦闘員に対してアークの戦闘狂が発揮されることはないだろうから。
 尤も、それは言われたからこそ今推測が出来るだけだ。
 戦闘狂が発揮されずうっかり殺されないのが非戦闘員だけであるのならば、戦えるそれは即ち
 リアトリスはアークが攻撃してきたとしても凌ぐだけの実力を有していることに他ならない。それがどれほどの安心材料になるか、アークの戦闘狂っぷりを知っているラディカルは充分に承知している。

「酷いです―私は空気が読めないのではなくて読まないのですよ!」
「訂正するところ違うだろ!?」
「そうですかー?」

 以外なる伏兵此処にいたり、といった面持ちでリアトリスの正体を知らなかった者は呆けるしかなかった。尤も策士たるカサネ・アザレアは一目でヒースリアの正体を見破ったのと同様に、リアトリスの正体をも見破っていた。何より、ヒースリアが偽名を使っているのに対して、リアトリスは嘗ての名前をそのまま使用しているのだ。調べるのもまた容易い。

「では、仮に避難地点と命名しましょう。そこにはシャーロア、ハイリ、リアトリスとカトレアの四名を異論はないですね?」
「うん、大丈夫だよ」
「では、次にA地点の方は、アークとホクシアそれに……」

 言い淀みながらカサネの視線はエレテリカにむく。

「王子、お願いできますか?」
「勿論だよ」

 エレテリカにとっては願ってもないことだった。何時だって策士は王子の安全を考えて、前線に身をさらすような策を練ることはなかった。その時傍らにいるのは策士と自分ではなく、策士と兄であり魔導師であるシェーリオルだった。
 カサネが願えば――否、願わなくともエレテリカは何時だってカサネの役に立ちたいと思っている。その真意を読みとったカサネはそれでも苦渋の決断だった。心は安全な場所で残ってほしいと思っている。しかし、その判断がすんなりと下せなかったのはカサネに原因があった。どのような理由があろうとも、勝手にエレテリカの前から姿を消したのは事実だ。その後、エレテリカのことが気になって調べたら――幸せを願って姿を消したはずなのに、そのエレテリカは落ち込んでいたのだ。それがカサネの胸を痛ませた。


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