零の旋律 | ナノ

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「しかし、シャーロア一人でいてもらうわけにもいきませんから……そうですね、ハイリ、貴方一緒にいてもらえますか?」
「なら、リアトリスとカトレアも一緒に」
「――構いませんよ」

 思うところがあるのか含みを持たせてカサネは同意した。それならば“安全”だと判断したのだ。

「じゃあ、頑張れよ。リィハ」

 サネシスの言葉に、ハイリは顔を引き攣らせる。

「無理だ」
「即答? おいおい」

 サネシスは呆れを通り越してどう反応をしていいのかに困るが、ハイリが戦闘面で対して役に立たないことを知っているアークは苦笑するほかない。

「リィハが戦ったって足手まといにしかならないだろう。シャーロアより弱いのに。シャーロアが守るならまだわかるけど」
「本当ですよね」
「確かに」

 アーク以下、ヒースリアとリアトリスの同意に事実でありながらも沸々と怒りが湧きあがる。

「お前らな!」
「って待て、ならシャーロアが襲われたらどうするんだよ」
「妹に何かあったら承知しないぞ」

 鋭い眼光に睨まれてハイリは身をすくませる。もとより治癒術師であるハイリは戦闘行為が苦手だ。ゴロツキを杖で殴る程度は出来るが、それでも時々負ける。
 ホクシアは無言だったが、サネシスとヴィオラと同様のことを思っているようだ、視線が僅かに鋭い。

「いや、問題ないだろ」

 アークは“認識の相違”に、話さなかったとは言え笑いがこみあげてくる。

「は? だからどういうことだ」

 要領を得ないアークの問いにヴィオラが詰め寄ると

「だってリアトリスがいるし」

 さらりとアークは答える。

「あぁそうか……っては?」
「いや、だからリアトリスが入れば問題ないし」

 慌ててヴィオラ以下、レインドフ家とシャーロア、ハイリそしてカサネ以外の視線がリアトリスに集中した。

「はーい」

 にっこりとほほ笑む少女がそこにはいた。

「リア、問題ないよな」
「問題ないですよ―。カトレアはもとより、シャーロアに手を出す輩がいましたら成敗しておきますですからー。あーリィハは知りませんけど」

 さらりと自身満々に答えるリアトリスに、ヴィオラは目を点にしながら問う。

「おい、どういうことだ」
「誰も戦えません。なんて言ったつもりないですけれど?」
「……なら、カトレアも戦えるのか?」
「カトレアは戦えませんですよ。戦いの渦中に出そうとするのなら、容赦なくヴィオラを切りますよ」

 笑顔だが、しかし目は全く笑っていなかった。背筋が凍る。この少女はこんな瞳が出来たのだろうかと。だが、そこで思いだす。
 リアトリスは気にしていなかった。帝国の研究施設に侵入した際、数多に倒れ殺された研究者や魔物を目にしても、眉ひとつ動かすことはなく、何時も踊りの明るさを振りまいていた。思えばそれがそもそも異常だ。あの、状況下で、全くの無反応で――しかも笑顔で入られる方が常軌を逸している。その異質さに何故今頃になって気がついたのか。
 思い返せば、それだけではない。帝国に行くといった時、そもそもカトレアがついていくという選択肢が存在しなかったのだ。ヒースリアかリアトリスについてこいとアークは言った。
 それは万が一危険なことが起きても対処しきれるヒースリアかリアトリスなら問題ないと当主が判断したに他ならない。
 どうして今まで気がつかなかったのだろうか、額に手を当てて自分の考えが及ばなさについて問い詰めたい心境に陥る。


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