零の旋律 | ナノ

反撃の狙撃


「まぁ私としてはこれ以上ないベストな組み合わせです。あなたたちならば失敗するとは思っていません。同じ個所から、別々の狙撃地点を狙ってもらいます」

 カサネはそう言って、来たばかりのジギタリスに地図を見るよう促す。

「どちらが距離がある?」
「此方です」

 地図の一点をカサネは指差す。狙撃地点から、魔法封じのある場所二か所をA地点とB地点と記していく。距離はどちらも並大抵の狙撃手ならば成功しないほどの長距離にあるが、僅かにB地点の方が距離が遠い。

「成程、では私はそちらを担当しよう。異論は?」

 カサネに対してではない。ヒースリアに対してだ。ヒースリアは忌々しそうに舌打ちをする。

「ない。ミスったら殺すぞ?」
「私がミスをすると思っているのか?」
「思っていないけどな」

 嫌悪感を隠そうともしないヒースリアだが、その実、ジギタリスの腕前はよく知っていた。
 そう――狙撃に関しては彼女の方が実力は上だと言うことを、熟知している。

「流石ですね(無音の殺し屋が二人もいるなんて心強いじゃないですか)」

 その素性を知るカサネは内心ほくそ笑む。

「では、A地点とB地点、両方魔法封じを破壊したのとほぼ同タイミングで襲撃をしてもらいましょう」

 カサネは自分の作戦を伝える。

「チーム編成は?」

 それは、誰の言葉だったか、カサネにはどうでもよかった。それは全員同意の言葉だろうから。

「まず、ヒースリアとジギタリスの二人に魔法封じの装置を破壊してもらいます。合図は後で伝えます。その後、魔法が使えるようになったら、シオルには魔法封じのあるA地点およびB地点に結界を展開してもらいます。内結界です。中に帝国の人族を閉じ込めてください」
「わかった。それだけでいいのか?」
「えぇ、とりあえずの所。万が一にでも再起動された場合のことを考えて武装はしていて下さいね? それとシオルへの援護――是は結界を無効化された場合を想定してですがラディカル、貴方はシオルと一緒にいて下さい」
「……わかったっすよ」

 ラディカルはその言葉に隠れるカサネの思惑を寸分の狂いなく読みとった。ラディカルはカサネが魔族だと知る――シェーリオルを除く唯一の人物だ。万が一それが露見することがあっては困る。シェーリオルと一緒にいれば、そんな行為は万が一にも達成できないと、計算しているのだ。
 いくら魔導が扱えないとは言え、レイピアも扱うことがシェーリオル王子だ、その技量は並々ならぬものだ。

「では、お願いします。で、次にシャーロア、貴方は何処かで避難していて下さい」
「え!? どうして」
「貴方は魔術が使えるのです。万が一『魔法』を使わなければならない事態に陥った時に仕える人がいないのは不便です。万が一を考慮して、避難していてもらいます」
「……わかった。でもお兄ちゃんは?」
「ヴィオラに関しては、魔術師から何か得られる会話があるかもしれませんから、前線に身を置いてもらいます」
「わかった」

 兄であるヴィオラが即答するのならば、自分が食いつく場合ではないとシャーロアは引き下がる。


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