零の旋律 | ナノ

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「ふーん」

 しかし当の本人は全くの自覚がない。

「無意識ってこえー」

 身ぶるいするラディカルであった。

「……アルベルズ王国の人じゃないんでしょ? 観光なんてわけはないわよね」

 カルミアが興味本意で問う。アルベルズ王国に観光目的で来訪してくる他国の人は滅多にいないからだ。
 アークとラディカルが乗っていた定期便だって出てはいるが、乗っている人はそれこそ商人以外は殆どいなかった。
 その為定期便の値段は割高だ。人が乗らないから。
 その割高の中でも一番料金が高い一等部屋にアークは泊っていたのだが。因みに四等部屋が一番安い。

「俺は仕事」

 アークは端的に応える。

「あぁ、成程」

 カルミアはすぐに納得した。で、とカルミアの視線はラディカルに移る。

「俺は……目的って目的は実際なかったりするんだよね」
「目的も観光もなくて、でアルベルズ王国に来たのなら即刻立ち去った方が身のためよ」

 淡々と事実をカルミアは告げる。

「……リヴェルア王国から来たんでしょ?」
「うん、そう」
「リヴェルア王国に住んでいるのなら余程の事がない限り、アルベルズ王国に来る必要性は皆無よ」

 リヴェルア王国はデルフェニ王家が収める王政国家。
 この世界は六つの大陸と、三国が存在している。その中でリヴェルア王国は随一の面積を有し、他国に与える影響も大きい。アルベルズ王国も王政国家だが、その所有面積はリヴェルアには遠く及ばない。

「此処の国がどういった国だか貴方たちは知らないわけではないでしょ?」

 リヴェルア王国の人は、アルベルズ王国への出這入りも通行券があれば可能だが、アルベルズ王国の人は、滅多な事がない限りアルベルズ王国から出ることも叶わない。

「資源が豊富で、有能な人が指揮をとっているリヴェルア王国とは違うのよ」

 最後の方は耳打ちをするように小声でカルミアはラディカルに告げる。誰に聞かれるかもわからないからだ。
 ラディカルもそれを承知している。重々と。だからこそラディカルはこの国に来た。

「だから来たんだよ」
「……? まぁ私は深くは追求しないけれどもね」

 その後は暫く日常的な会話で盛り上がって、夜が明ける前にラディカルとアークは店を後にした。
 ラディカルはもっと会話をしていたかったが、その前に閉店時間が来たため渋々退室した。

 にぎわっていた酒場は一気にこぢんまりとする。
 後片付けをしているカルミアの所に近づきマスターが声をかける。

「カルミアは何故あの二人とずっと話していたんだい?」
「片方は他の人に任せたくなかったからよ。といってもマスターのことを指しているわけじゃないわ」
「片方というと眼帯をしている少年の方かい?」
「逆。酒飲みの方よ。彼はアーク・レインドフ。リヴェルア王国――始末屋レインドフ家の当主よ」
「なんと!?」

 思わず拭いていたグラスを地面に落す。しかし酔っぱらいがグラスを倒しても割れないようにと頑丈な造りで出来ているグラスは割れなかった。グラスを拾って洗い直しながらマスターは再び問う。信じられないからだ。

「どういうことだ」
「そのままの言葉よ。誰かを始末しにきたのか、始末の依頼を受けにきたのかまでは知らないけれどね。客と下手なトラブルを起こされて死人でも出たら困るからね――まぁ噂通りなら、余程の事がない限りは大丈夫でしょうが、噂を全て信じきるわけにはいかないからね」
「しかし、それはカルミアとて同じだろうに」
「私は平気よ。そんな墓穴掘ったりはしないから」

 軽く流しながらも、テキパキと後片付けを進めていく。

「ならいいが」
「こんな廃れた国に用があるモノ好きも珍しいものよ」

 独り言を呟く。僅かな音量で呟かれた言葉はマスターの耳には届かない。


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