零の旋律 | ナノ

魔族到来


 港町シデアルに向かう前にアークは一度レインドフ家へ帰宅する。一度仕事に手をつけ始めると食事をとらない自分の性質を理解している為、休息と食事を兼ねて。カサネ・アザレアの依頼である今回も何処かやる気がわかなかった。

「おかえりなさーい。随分早いかったですね、ついに仕事失敗しましたか? そしてレインドフ家の顔に泥を塗ったと絶望の最中なのですね、わかりますよ!」

 開口一番元気よくメイドの一人が満面の笑顔で箒を持ちながら声をかける。

「おかえりなさい」

 もう一人のメイドは、後ろに恥ずかしそうに隠れて顔だけを僅かに出して挨拶する。

「まず一つ、俺は仕事に失敗していないし絶望もしていない! 随分早かったのは依頼を受けてきただけだからだ」
「そうなんですか、じゃあ次は何処に行くんですかー?」

 特に興味もなく問う。

「シデアル」
「行きたい!」

 勢いよく挙手されたことに一歩後ろに下がって驚く。

「なんでそんなに元気なんだよ!」
「シデアルといったら色々な商品溢れる港町じゃないですかー、偶には買い物したいなって思って、主に集ろうかと」
「集るな」
「集るほどお金持っているんだからいいじゃない。偶には物資の流通も重要ですよ」
「……まぁいいか。カトレアもいくか?」

 後ろにひっそりと隠れているメイド――カトレアにもアークは問う、カトレアは静かに首を縦に振る。

「というか私が行くのにカトレアがいかないわけないじゃないですか」
「そうだな。じゃあ飯食べたらいくから準備しとけ」
「はーい」
「あぁ、そうだ。リアトリス」
「何ですか?」

 元気のよいメイド――リアトリスは首を傾げる。

「……いや、何でもない」
「ふーん変な主。じゃあ着替えてきますね」

 流石にメイド服じゃ目立つから、そういってカトレアと仲良く手を取り合って自室に向かう。

「いいのですか? カトレアとリアトリスの二人を連れて行って」
「別に構わないだろう、それに――」
「カサネ・アザレアの依頼だからですか?」
「そうそう」

 普段のアークなら絶対にないだろう事をカサネ・アザレアの依頼というだけで許容しても構わない気持ちになる。

「まぁ私も構いませんよ。特にリアトリスの方が一緒は幾分やりやすい」
「カトレア至上主義が発動しなければな」

 そうしてメイド二人を含めアークとヒースリアは港町シデアルに向かう。
 シデアルに到着するとリアトリスは両手を広げ身体を解してから

「やっぱりいいなぁーシデアルシデアル!」

 クルクルと一回転して華麗にポーズを決める。

「おーい、最初っからハイテンションでいくなよ」
「大丈夫ですよ。シデアルにいる間には私の体力は尽きませんからー」
「どんな体力だよ」
「では、私とカトレアは街を満喫してくるんで、主は好き勝手に仕事を終わらせて下さいませー」
「おい!」

 アークの制止空しくリアトリスとカトレアの二人は仲良く手を繋ぎあっという間にアークの視界からいなくなる。

「私もリアトリス達についていきましょうか」
「なんでだよ!」
「貴方の下らない突っ込みに付き合うほど私は暇人じゃないんで」
「至極まっとうな突っ込みだろう」
「至極まっとうな仕事をしていない主が真っ当なんて言葉を使うものではありませんよ。真っ当な仕事をしている方に失礼にあたります」
「おい」

 アークはため息をつきながら、目的の場所に向かう事にする。
 乗り気ではないとはいえ、仕事は仕事。達成しなければならない。ヒースリアも文句を云いながらアークから離れながらついていく。


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