零の旋律 | ナノ

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 カサネは徹夜で作戦に追われていた。策士は姿を自ら消したが、しかし緊急事態として再び城へ姿を現したことを誰も咎めなかったし、そんな状況ではなかった。
 誰もがカサネの頭脳は認めている。呉越同舟ではないが、こんな状況では一致団結するよりほかなかった。
 翌日の太陽が真上に上る頃、アークとヴィオラは戻ってきた。
 丁度その頃、タイミングを見計らったように全員集合していた――否、一人増えていた。
 街の現状を知っていてもたってもいられずに訪れたラディカルが作戦に加わることになったのだ。

「なっ……!」

 アーク、ヴィオラと入室してきた人物に驚愕するものがいた。
 その驚愕の度合いは今にも拳銃を発砲しても不思議ではないくらいである――というか手には白銀の拳銃が握られていた。

「アーク! お前何故よりにもよってこいつを!」

 偽りの丁寧語が最初から消え去った素の口調でヒースリアは声を荒げる。ヒースリアが驚愕した人物、それは銀色の光加減によっては薄い金髪にも見えそうな色合いをし、その髪は異様なほどに長く足首まである。所々独特の跳ねかたをしていて、うっすら円を描いているようにも見える。真っ赤な瞳はルビーのように美しい。整った顔立ちは世の男性を虜にしても何ら不思議はないほどだ。女性にしては長身でヴィオラと大差ない。
 白と赤で彩られた服装に、白のロングコートを肩から羽織っている。その人物は元アルベルズ王国の将軍であり、現在はイ・ラルト帝国に在籍しているジギタリスだ。その隣には青みがかった銀髪にサングラスをした、ジギタリスとは対照的な黒と青の服に身を包む青年カイラが並ぶ。

「何? 知り合いなのか?」

 首を傾げたのはヴィオラだ。
 以前ジギタリスと出会った時、ジギタリスは何処かヒースリアと似ていると思っていたが、確かジギタリスはヒースリアの名前は知らないと答えたのだ。
 ならば一方的に知り合いか――? とヴィオラが思った時だ。

「その服、似合わないな」

 ジギタリスは淡々としながら、そしてヒースリアの問いにアークが答えるよりも先にヒースリアの姿を見て、感想をいったのだ。
 そこでヴィオラは双方が顔見知りであったことを確信する。

「ジギタリス、アンタは以前俺の問いに知らないといったが?」
「私が知っているのはヒースリア、という名前の人物ではないだけだ」

 さらりと返されてしまった。そこで思いだす、ヒースリア・ルミナスは偽名であったことを。

「で! 答えろアーク。何故!」

 ジギタリスがいることが甚だ不満なのだろう。ヒースリアの不満ぷりに、一緒に同伴してきたカイラの口元が歪に弧を描いている。尤もサングラスで相変わらず瞳の表情は伺えない。

「いや、だって狙撃主ったらジギタリスだろ」
「……それは」
「他にいい狙撃主がいるなら紹介してくれ」

 それが決定打となる。

「ちっ、わかったよ」
「なんだ? 仲悪いのか?」

 一方的なヒースリアの嫌いように――それも素の口調のまま嫌っている様子にサネシスは困惑した表情を見せる。それはサネシスだけではなかった。

「この様子を見て、仲がいいと思われても困るな」

 一方的に不満と嫌悪を見せるヒースリアとは対照的にジギタリスが淡々と答えた。


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