零の旋律 | ナノ

V


 魔導が使えないことを他の人々も認識したのか、あちらこちらで叫び声が聞こえる。しかし、悲鳴が聞こえない所を見ると、襲われているのは恐らく王子である彼らだけなのだろう。否、王宮も襲われているかもしれないが、それを確認する術はない。

「このことについて、終わったら話してもらえるのか?」
「あぁ、ホクシアたちと手を組むならな」
「上等!」

 数が多いと内心シェーリオルは焦りながらも、不思議と不安はなかった。背中を任せてあるエレテリカのことを信じているし。何よりアークの実力を知っている。
 多勢に無勢だったとしても、そこまでの戦力差が生まれないことを知っていた。
 もっとも旗がどれだけの威力を持っているかは図りようがない。不安要素があるとしたらそれくらいだ。
 ローブの人物たちはすでに三十人余りいる。王子を狙っての犯行だということは見え見えだ。まさか始末屋を始末するために容易した人材ではあるまい。
 シェーリオルへ向かってくる一人を、足払いをして軽くかわしながら容赦なく心臓へ一つ気にする。シェーリオルは敵に対して容赦しない。王子でありながら、血で汚れることも平気でやってのける冷酷さを持ち合わせている。

「いた! アーク」

 そこへ足音がすると同時に現れたのは、ホクシアとヒースリアの二人だった。

「ヒースとホクシア? どうして」
「急に魔法封じが発動したみたいだから様子を見に。何人かに分かれて行動しているわ」

 ホクシアが簡潔に告げると同時に、鞘から長刀を抜き取る。手入れが隅々まで行き届いていて、刃の光が太陽に反射して眩しい。すらりとした刀と、金髪の少女の組み合わせは何処から見ても不自然なはずなのに、凛とした相貌からか、その姿は異様にしっくりときていた。

「帝国の兵士ね、答えなさい。何処に魔法封じの装置を隠してあるのか」

 玲瓏なる声に、だがローブの人物たちは何も答えない。ケタケタと不気味な笑い声をあげるだけだった。それが酷く癇に障る。

「色々――ありますね」

 何を考えているのか想像するだけ無駄だと周囲に諭させるような笑みを浮かべながら、懐から白銀の拳銃を取り出した。

「何、珍しくヒース戦うつもりがあるのか?」

 旗を振り回しながらも余裕なアークはヒースリアに声をかける。

「失礼ですね。戦うつもりは到底なかったのですが……」
「ですが?」
「道中ホクシアとしりとりをしたら負けてしまったので」
「何してんの!?」
「ですので、今回は手伝うことになりました」
「いやいや待て、ちょっとつっこむ時間が足りないぞ!?」
「人の冗談を間にうけるなんて面白いですねぇ」
「冗談!? いや、今の絶対本当だっただろう!?」
「冗談ですよ、冗談」

 結局冗談なのか本気なのかはともかく何かしらのやりとりがなされた結果、ヒースリアが武器を取るにいたったのだろうことだけは判断がついた。
 つっこみに集中していたせいか旗がおられたので、仕方なく第二の武器として看板を武器に振り回す。ローブの人物たちの素性は見えないが、それでも変な武器で戦うアークに動揺していることは空気から伝わってくる。


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