零の旋律 | ナノ

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「相変わらず王子らしくないシェーリオル・エリト・デルフェニ。見つけた」
「だからリーシェでいいって」

 お決まり文句を返してからシェーリオルは振り返る。艶やかな髪は売ればシルクより高値が付きそうなほどの美しさを放っている。整った顔立ちは笑みを浮かべるだけで、誰だって魅了してしまいそうだ。その美貌を近寄りがたくない雰囲気へと変えているのは、着崩した服装によってだろう。
 その隣には、以前であったシェーリオルの弟で策士カサネ・アザレアが忠誠を誓った唯一の存在エレテリカが一緒だった。兄とは違い、明るい茶髪にピンク色の瞳は優しい雰囲気を醸し出しているが、何処となくその瞳に影が差していた。原因に心当たりは大いにある。カサネがいなくなったことだろう。シェーリオルとは違い、服装を着崩したりはしていないのに性格の違いが表れているように思えた。

「エレテリカ王子もいるようで」
「こんにちは」

 声の調子も以前出会った時より低い気がした。恐らくは聞き間違えではあるまい。

「リーシェ王子。ちょっくら用があるんだが、いいか? 出来るだけ急ぎなんだ」
「何だ? エレが一緒だと困る話か?」
「んーどうなんだろ? まぁ別にいいんじゃないか?」

 協力者は大いに越したことはないだろう。シェーリオルより面識回数が少ないとはいえ、エレテリカが魔族を差別し愉悦するような人物には思えなかった。王族の力を利用出来るに越したことはない。

「何だその、どっちでもいいやー感。お前が動いているってことは仕事なんだろ?」
「そうだけど、普通の仕事じゃないもので」
「仕事中毒は発揮しにくいか」
「まぁいいや、単刀直入に言う。ホクシアたちと会う気はあるか」
「……わかった、行こう」

 ホクシア、その名前だけでアークが何を目的としているのか大体の目星がついた。恐らくはクセルシアで起きた『魔法封じ』が原因だろう。
 それならば、魔導師であり王族であるシェーリオルも動かないわけにはいかなかった。問題はエレテリカをどうするかだが――その時、異変をシェーリオルは感じた。

「なんだ!?」

 何かが違和感を覚えさせる。それは何だ――シェーリオルが考えをめぐらすよりも早く結論が出た。
 ローブで姿を隠した数名の人物がシェーリオルとエレテリカを狙うように現れた段階で、シェーリオルは魔導を放って撃退しようとした、しかし魔導が扱えない。

「魔法封じを王都に!?」
「耳に入っていたか、流石王子様。そうらしいな」

 違和感を覚えた時、アークは真っ先に不本意ながら魔導を試していた。結果は予想通りだった。
 異変を感じたホクシアたちが街へ足を運ぶかもしれないが、それはともかく、この場で王子二人を殺されるわけにはいかなかった――それは仕事へ支障をきたすからだ。
あくまで始末屋の基準は仕事であり、数度出会ったことがある人族を率先して守ってあげようという気概は持ち合わせていない。

「ちぃ」

 魔法封じの話を聞いてから、念の為シェーリオルはレイピアも持ち歩いていた。素早くレイピアを抜いてエレテリカと背中合わせになる。

「エレ、大丈夫か?」
「勿論。むしろリーシェ兄さんの方が大丈夫?」
「……問題ないさ」

 剣伎の腕前だけで言えば、シェーリオルよりエレテリカの方が上だ。魔導が使えないこの場で心配されるべきはむしろシェーリオルである。
 アークはその辺に何かないかと探し、外套を武器にしようとしたところでシェーリオルに止められた。仕方なく店の旗で代用する。


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