]W 魔法師のミルラの存在が結界の要である以上、魔法を封じられてしまってはヴィオラ一人で結界を保持し続けることは出来ない。仮にシャーロアがそれに加わった所で、殆ど効力を成さないだろう。結界術をシャーロアが専門に扱っているわけではない。応急処置程度にはなってもそれ以上は望めない。 ならばこそ、魔術師を始末する必要があるのだった。 もう、魔族は魔術師を受け入れることはない。そして、強硬手段に出ている魔術師が温厚な手段を望んでいるとは到底期待できない。 「そういうことだ」 「成程、大体はわかった。なら、まずはどうする?」 「……不本意だが、文句は言っていられない。王都へ行く」 「了解。因みに報酬はどうするんだ――?」 アークはまだ依頼を引き受けたわけではない。基本、始末屋レインドフは成功報酬と前払いの二パターンに分けている。しかし、最近では前払いに成功報酬を含める支払い方法が主となり始めていた。理由はいたって簡単だ。始末屋が依頼に失敗しないからだ。ならば二度手間になるよりも最初に支払ってしまった方が簡単だと依頼主たちが判断し始めている。 勿論、どちらの方法をとってもアークとしては構わない。 「言っとくけど、そんな長期になりそうな依頼、安くはないぞ」 依頼内容と報酬が合わなければアークは依頼を用意に蹴る。それがわかっているホクシアは短刀を取り出して、それで手首を切ろうとしたが、寸前の所でいつの間にか移動していたサネシスが止める。無言で短剣を奪ってサネシスは自らの手首を躊躇なく切った。滴る血の流れに小さい魔法陣が無数に展開して、血は液体から固体へと移り変わっていく。そして――黄金に輝く魔石が生まれた。何の細工もしていない魔石だったが、それは一目で市販している魔石とは比べ物にならないほどの価値があることを物語っていた。 それを無造作にアークへ投げつける。 「とりあえずそれで引き受けろ。足りなければ他は後払いだ。どうにでもする」 もとより、アークへ依頼を支払うだけの金銭を魔族は持っていない。ヴィオラが稼ぐことも可能だが、金額が金額だ、時間がかかる。その時間が今は一刻も惜しい。そうなれば、手っ取り早く報酬としての価値があるものを作るしかない。それは――魔石を置いて他にない。そうホクシアは結論を出していた。だからこそ、シェーリオルへ渡したように自らの魔石を作ろうとした――魔石は、魔族が忌み嫌うものであるのにもかかわらず、それでも背に腹は代えられない。 だが、その思いを静かにサネシスはくみ取っていた。だからこそ代わりにサネシスの魔石を作った。 品定めをするように魔石を眺めていたアークだが、ややあって頷いた。とりあえずの報酬としては充分に足りるものだったのだ。 「レインドフにあるどの魔石よりも高価だな。何かあるのか?」 「魔徒ってのを知っているか?」 今日は耳慣れない単語のオンパレードだなとアークは内心苦笑する。 「何だ、それは」 「魔徒っていうのは、魔族を統べるものたちの名称だ。俺もホクシアも魔徒であり、魔徒の魔石は――お前がいう言葉に合わせるのならば、他のより高価なんだ。そもそも魔徒の魔石は殆ど生成されることがない。シェーリオルが当初使っていた魔石も魔徒の魔石だ」 「成程な」 説明はそれだけで十分だった。アークはとりあえず魔徒の魔石を上着のポケットに入れた。 報酬金額には拘るアークだが、その報酬そのものにはこだわらないアークらしい動作である。 「じゃ、王都へ行くか」 観光にでも行く気軽さで、アークは言った。 [*前] | [次#] TOP |