W 「とりあえず、店員さんじゃなくて、カルミアと呼んでくれると嬉しいわね」 酒場の店員はカルミアと名乗った。年の頃合い二十代後半。ラディカルの実年齢と大差はないだろう。 「じゃあカー姉さん」 「初対面で仇名を付けられるとは思わなかったわ」 「まぁカルミアはいいじゃん、俺なんて今にも死にそうなお兄さん呼びされたぞ」 「……はい?」 「だから今にも死にそうなお兄さん」 そしてその仇名は今も呼ばれ続けている。流石に何処でも呼ぶわけではなく、時と場合をわきまえてはいたが。 「何それ、面白」 カルミアは微笑しながら、カシスをアークの前に置く。 「俺はラディカルで、こっちはアーク。通称今にも死にそうなお兄さん」 「いらん事を教えるなってか通称じゃないし」 「俺にとっては通称なのよ。ってかお兄さんだって俺のこと眼帯君って呼んで名前で呼んでくれないんだからお相子でしょ」 「今にも死にそうなお兄さんよりかは大分ましだとは思うが……」 最初は眼帯君と呼び続けるつもりはなかったが、回数を重ねる度に眼帯君の呼び名がアークの中で定着していった。それ故に名前を知った今でも眼帯君と呼び続けている。 「俺的にはナイスネーミングセンスだと思ったから、今でも使っているんだけどなぁ」 「その感性は何処かおかしいだろうが……」 「かははっまぁ細かい事を気になさんなって」 会話を楽しみながらカルミアはビールをラディカルの前に置く。ラディカルはグラスを持つとそのまま一気飲みして、勢いよくテーブルの上にビールを置く。 「かはっ、久々に飲むと旨いぜー、カー姉さんお代わり!」 「ちょっと待ってね。それにしてもラディーはきもちいいくらい一気に飲むのね」 カー姉さんと呼ばれたからか、カルミアはラディカルのことをラディーと略した。 「かははっやっぱりビールは一気飲みっしょ。最初の一杯は」 「まぁいいとは思うけれど、ラディーは未成年じゃないわよね?」 出す前に確認しろとアークは心の中でのみ突っ込む。ラディカルは心外だ、と首を横に振る。 「俺は二十五歳だったりしますぜ」 「二十五……? 大分童顔なのね」 ラディカルの容姿を隅々まで凝視する。毎度のことながら、ラディカルは自分の実年齢を言うのが嫌になる。十代にしか見えない容姿がどうにかならないものかと――そしてどうにもならないと諦める。 「言わないでくれや。俺だって自覚しているんだから。だから今にも死にそうなお兄さんとかと一緒じゃないと酒場にも近寄れんよ」 「まぁ確かにそうね。アークは二十代前半って容姿しているし」 「俺も年齢を一発で当てられるようになりたいわー」 「無理ね」 「即答しないでよー」 馬があったのか、その後も暫くラディカルとカルミアは世間話をし続ける。 アークはその間にカシスを二杯と、グレープサワーを一杯、赤ワインを一本開けていた。 「ザルなお兄さん、ちょっと飲み過ぎじゃない?」 沢山飲んでいるアークに気がついたラディカルは遠慮がちに問う。ひょっとしたらすでに酔っぱらっているんじゃないかと恐怖しながら。 「ん? そうか?」 しかし当の本人はいたって平気そうな顔をしている。倍以上飲んでも平気そうだ。 「お兄さん酒強いんすね」 「昔一度だけ酔ったことはあるから、飲む量には気をつけているよ」 「気をつけている量を問うに越しているよ。つかお兄さんは酔ったらどうなるのさ」 興味半分で問う。 「あーと、仕事モードに突入」 「……カー姉さん。もう此処の酒飲みお兄さんには酒渡さないでください、頼みます」 「どうした眼帯君。今にも土下座しそうな勢いじゃないか」 「そりゃ、土下座してお兄さんが酒を飲まなくて済むなら土下座なんて安い物だよ」 アークの仕事モードを二回ほど目の当たりにしているラディカルとしては、何が何でも酔っぱらって欲しくなかった。自分では酔っぱらったアークを対処出来る自信は皆無だ。 未だに背後から突然話しかけられ驚くばかり。アークの気配を掴む事が出来ない以上、アークと自分が戦えばどちらが勝つか明明白白すぎる気がしていた。 [*前] | [次#] TOP |