零の旋律 | ナノ

]V


「異変を察知した俺は、シャーロアを置いて村に戻った。村はすでに滅んでいた。だから俺は――何が起きたかを全て盗み見た」
「盗み?」

 ヒースリアの疑問に、そういえばそのことを説明していなかったとヴィオラはさらに自嘲する。それを喋ることは相手に嫌われる覚悟がないと出来ない。最も握手をすることを拒んだヒースリアと、手袋を常にしていたアークやリアトリスには触れていないため、記憶を垣間見ることはなかったのだが、それは結果論でしかなく、事実手袋をしていなければ、そして握手を拒まなければヴィオラは記憶を見た。何の悔恨もなく。握手には記憶を見ようという意思が確かに存在していたのだ。

「……レス一族は、相手の肌に直接触れたら――此方も肌で、だが。相手の記憶を除くことが出来る」
「成程、ですからリーシェ王子と握手した時に貴方は逃げたのですね、何か見て後悔するものを見てしまったから」

 握手を求めた以降ヴィオラがシェーリオルを苦手としていた理由を一気に理解された。理解力が早いのは助かるが、少々やりにくいなと思う。

「だから、俺はレス一族の記憶を全てみたんだ。何が起きたかは知っている。そして、レス一族は子供を除いて全てが結界の担い手だった。だが、その担い手が全て死んでしまえば結界は効力を保てなくなり、綻ぶ。その時に魔術師は侵入したんだよ。結界が弱くなれば破ることもできるからな」
「それを知った魔族は大至急別の結界を貼り直したわ。けれど、レス一族の結界を使えるのはレス一族だけ。だから魔族が大至急結界を貼ったところで今までとは別物。さらに言うならば、レス一族の結界は子供を除く総出で結界の担い手だった。生き残ったヴィオラ一人では到底なしえないこと」

 そこにシャーロアが含まれていないのは、血なまぐさいことをシャーロアには背負いこませたくない兄心だった。

「だから、私たち魔族の中で最強の結界術師であるミルラを次の結界への担い手になってもらったの。今、ユリファスを守っている結界は魔族のミルラと、魔術師のヴィオラ二人によって維持されているわ――それも大半がミルラの結界によって成り立っている。基盤だけはヴィオラの術だけれども」
「成程。だから魔術師がいる、なおかつ魔法封じが出現したことにたいして魔族は見逃すことが出来ないのか」

 魔法封じは魔法を使えなくする力。故に、魔法封じがまだ街単位の小規模なものであればいい、だがそれが世界全体を覆うほどの大規模――そこまでいかなくとも、ある一定の範囲を持ってしまえば、そこは結界で守ることが出来なくなる。それはすなわち魔術師の侵入を許すことに直結する。


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