零の旋律 | ナノ

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「……人族の世界エリティスは魔術が原因での争いが長年続いていたんだ。だからこそレスは再び同じことが起きるのを危惧して――嘘をついた。魔族の世界ユリファスと世界エリティスは違う世界であるが故に、ユリファスで適応して生きていくためにはこの魔水を飲まなきゃならないと、その魔水は簡単にいえば魔術を封じる水だ。その条件を飲めない者はユリファスへはいけない――生きていけないと諭した」

 ヴィオラは記憶を呼び起こすように一息つく。その当時を生きていないが、レスはそれらを全て継承してきた。だから鮮明に当時の出来ごとが浮かび上がってくる。

「だからこそ、その条件をのんだ人族はユリファスへ移住した。魔術を失うことを拒んだ魔術師はエリティスへ残る道を選んだんだ。それが今の人族だ」
「ってことは、魔術が使えるものたちは魔水を飲むことを拒んだ、ということですか?」
「いいや、違う。俺たちレスは別として――レスは魔術を移住する人族全てが終わるまで行使する必要があったから、移住が終わった後に自分たちの魔術もなくそうとしたが」
「それを私たち魔族が止めたのよ。貴方達まで魔術を無くす必要がないと言ってね」

 ホクシアがヴィオラの言葉を引き攣ぐ。魔族は、レス一族が魔術を持ち続けることを望んだのだ。だからこそ、レス一族はそれに応じて魔術を封じなかった。

「この世界ユリファスで魔術を行使できるのはレス一族――俺とシャーロアの二人だけなんだ。だからこそ、魔術師である軍師アネモネや、ヴァイオレット、それに――魔封じを試験していた魔術師の存在は本来ならあり得ない存在だ」
「あり得ないのにあり得ている……つまりはあれか? その世界エリティスからやってきたってことか?」
「……そういうことだ」

 苦虫をつぶした顔でヴィオラは答える。それは本来あってはならないことだった。けれどそれがあり得てしまった原因をヴィオラは知っている。
 確認したわけでも確認出来ないことだが、それが出来る機会は一度だけしかない。

「なら、行き気は自由なのか?」
「いや、それはない。俺たちは魔術師を見捨てたんだ。その際、この世界には二度と魔術師が訪れることが出来ないように結界を張り巡らせた。魔術師対策にな。だが一度だけその結界が綻んだ時があるんだ。恐らくはその時に一部の魔術師が此方の世界へ侵入したんだ」
「結界が綻んだ時?」
「レス一族が滅んだ時だ。最も――自分で言うのもあれだが、殺されたことについては、幸運だったとしかいいようがない」
「ヴィオラ!」

 ホクシアの切実な叫びが聞こえるが、ヴィオラは自嘲するだけだ。

「事実だ。レス一族はうっかり見つかってしまったんだよ、人族に。魔石を持ちいらずに魔術が使えることがな。それを見たのは貴族の人で――上の人族だったり魔導師だったらば恐らく研究材料にするために生きながら捕えるか、殺しても標本にする道を選ぶのが道理だが、その貴族はそうはしなかった。危険と恐怖とパニックで、レス一族を皆殺しにすることを選んだんだ。いくら魔術が使えるからって言ってそれは戦略上有利になる要素ではない。人族はすでに魔導を扱えるのだからな。だからこそ数の上でも勝らない、何より戦う道を放棄していたレス一族に勝ち目は最初からなかった。俺やシャーロアが生きているのは単純に、その時村にいなかっただけだ」

 偶々川のほとりで遊んでいた。花の冠を作って遊んでいたのだ。


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