零の旋律 | ナノ

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 魔導師は、魔族と同じ括りでの名称を望まないのが大半の意見だ。魔導師にとって、魔石に頼らないと魔法が行使できないのは、それだけで劣等感でありプライドが傷つけられるもの。だから自分たちを『魔導師』と呼んでいる。
 魔族にとっても同様だ。自分たちの血を持って魔法を行使する術を見出した人族と同じ括りにはされたくない。
 それなのに、その思いも蟠りも括りも関係なくリアトリスは一つに纏めてしまった。渋い顔をしている魔術師と魔族に、ヒースリアは内心おかしくてたまらなかった。表情にも多少現れていただろうが、咎めるものは誰もいない。

「……それは、とりあえず置いておいて話を進めるぞ。魔物の存在は、元々魔石を体内へ入れた人族の慣れの果てた」

 そこで息をのむ者がいるのがわかった。ハイリだ。ハイリはその事実を知らなかった。最も魔石を体内へ入れているわけではない。入れていなくて安心したのかは定かではないがヴィオラは続ける。

「故に、魔物を魔族は操れる。意思疎通は魔力による……念話で行われる。勿論言葉にしても伝わらないわけじゃないけどな。故に、魔物を統率出来るには魔法が使えている間に限る。魔法が使えなくなれば魔物を操れなくなる。最も――そう言った操る意思ではなく、魔物と対等な関係を結んだ者なら、その魔物を限定的に操れるが、そんな魔族は少数だ。ルキやミルラが行動を共にする魔物くらいしか不可能だ。だから、魔法を封じられれば、魔物は魔族も襲ってくる」

 魔物を行使できるのは、魔法が使えている間に限定される。それはアークですら知らなかった事実だ。
 ヴィオラは尚も続ける。

「で、『魔法封じ』ってのは、魔術師と帝国が生み出した、魔法を封じる装置――術式の名称だ、こっちが勝手につけたから正式名称は知らないけどな。略すと魔封じか。それを発動されると一切の魔法が使えない。勿論、魔導も使えなくなる、魔法と魔導は同じだからな。だが――魔術は操れる。同じ術を使うものではあるが、魔法と魔術には違いが存在するからな。簡単に言えば、魔族は魔法で、人族は魔術」
「じゃ、いいですかー?」

 リアトリスが手を挙げる。

「何だ?」
「魔術師は何処から存在するのですか?」

 確信的な問いに、ヴィオラは僅かに言葉を詰まらせる。しかし、情報を開示すると行った以上、隠すことは認識の相違をもたらすことに変わりない。

「そもそも、この世界には最初、魔族しか存在していなかった。人族と呼ばれる種族は存在していなかったんだ」

 この言葉には流石に始末屋も、元殺し屋も、元暗殺者も、治癒術師も息をのんだ。
誰もが想像だにしない、予想を遥かに上回る答え。
 幼少期にもしもこの空の果てに、この世界より外に他の世界があったらと夢想したいことはあっても、それは夢物語だけの話であり、成長するに伴って、そんな夢想はしなくなった。世界が他にあるのはおとぎ話や物語の世界だけだと。
 だが、その言葉が事実であるのならば、納得出来ることは幾つもある。
 魔族と人族はその姿形が酷似していながら、全く別の存在だ。
 それらが、元々世界が違ったが故に存在しなかった人種であるのならば、後から増えたが故に二種族存在する世界になった、と言われても違和感はないし、むしろそちらの方がしっくりとは来るだろう。

「人族は別の世界に存在していた。人族がいた世界は――争いが絶えずに、崩壊の一歩を辿っていた。だからこそ、争いに疲れ果てた人族は、自分たちの世界を捨てることを決めた。その当時のレス――レスってのは俺たちの祖先な。レス一族は他にも世界があるんじゃないかという夢を抱いていたら、偶然にもこの世界の存在を知った、魔族と密かに交流を持ちその結果――争いを嫌った人族を此方の世界ユリファスへ移住させてもらえることになったんだ」

 語られる歴史は誰もが忘れ去られて歴史として抹消した事実。何故ならば人族の伝承にそのような物は存在しない。最初からこの世界に住んでいたことが歴史書に記されているだけだ。とんだ大嘘だ。


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