零の旋律 | ナノ

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「シャーロア」

 ハイリとカトレアの隣にいて包帯を手にしている少女の姿が見えると同時にアークは気軽に声をかける。

「アークも来てたんだ!」
「あぁ。そだ丁度いいや。ちょっとハイリを借りて行くから、カトレアと二人でいてくれるか?」
「おい……」
「うん、わかったよ」
「じゃあ連れて行くわ」

 サネシスが半分呆然としていると中で、アークはハイリの返事を聞くよりも早く、首根っこを掴んで引きずるような形で連れて行った。半ば誘拐だ。ハイリの講義する声が聞こえたがアークが歩みを止めることはなかった。
 ほのぼのとした空気を醸し出すシャーロアとカトレアを何度か振り返ったのちサネシスは小走りでアークへ追いつき耳打ちする。

「なぁいいのか? あの少女はいなくて」
「大丈夫だ。どの道リアトリスがあっちにいるしな。認識の相違は特に出ないだろう」
「……まぁそうアンタが判断するのなら、俺は何も言わないけど」
「そうしておいてくれ」

 ハイリだけを引っ張って元に戻ると、同様のことをホクシアから言われたが、同じことを返すとまぁいいわと返答された。

「ま、確かにアークやヒースが入ればいいか」

 ヴィオラの言葉に、成程とアークは頷く――認識の相違だと。魔族に味方をしている面々の中でリアトリスが戦えて、カトレアが全く戦えないことを知っているのはシャーロアだけだ。シャーロアが風潮するわけがない。ヴィオラは今でもリアトリスとカトレアは戦えないと認識しているのだ。だが、アークは別段認識の相違について気がついた所で、わざわざ訂正をしてあげようという気概は持っていない。
 何よりどうせ判明することなのだから、改めて説明するまでもない。

「じゃあ、認識を共通にしたいから、此方が知っている情報は開示する。そっちもしている情報があったら開示してくれ」
「わかった」
「なら、進める。まずはヒースとリアトリス、それにハイリは知らないことが多いだろうから最初から説明する。魔族は『魔法』を扱い、人族は魔族の血によって生成される魔石を用いて『魔導』を扱う。魔法と魔導の二択が、此処では一般だが、それ以外に人族でありながら魔石を使わずに魔法と酷似した『魔術』を扱う人族がいる。其々を扱う者たちを『魔法師』『魔導師』『魔術師』と呼ぶ。此処まではいいか?」
「では、魔師ですね」

 リアトリスの言葉に、魔族と魔術師は肩透かしを食らった。よりによって纏められるとは想像だにしていなかった。そもそも纏めて呼称するなんて発想すらなかった。

「纏めるなよ」
「魔師でいいじゃないですかー。纏められて困るほどの違いはあるのですかー? 全部、術を扱うことに変わりないですよねー?」
「……」

 そう言われれば、そうであって反論の余地がない。別段際立った違いがあるわけでもないものまた事実だった。だからこそ、違いを説明すれと、言われれば困るのだ。魔石という道具を扱わないと魔導が使えないといっても、結局術を行使することが出来るのだ。
 術を扱えるか扱えないか、その一点のみに絞るなら大それた違いはない。

「というわけで魔師でいいですねー」

 此処に新たな名称が誕生した。定着して欲しくないと思う魔術師と魔族だが、しかし定着しそうだなとアークとヒースリアは内心で思う。


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