零の旋律 | ナノ

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「始末屋がどんなものか私は知らないが……まぁいい。ホクシアの好きにすればいい。協力はする」
「お願いするわ」

 ミルラはそれ以上人族と同席したくないのだろう、怱々に集会所を後にした。
 そこでヴィオラはほっと一安心した。
 何故ならばリアトリスがミルラを前にして「物騒ですねぇ」と言いだして一触即発の雰囲気になると危惧していた。しかし、その思いとは裏腹にリアトリスは終始無言だった。
 空気を読まず、所構わず笑顔のまま言動を繰り返すリアトリスを知っているからこそ、それが違和感だった。最もアークたちから言わせればリアトリスは空気を読まないだけであって、空気自体は読めるし空気の変化には敏感なのだ。
 だから、リアトリスは空気を読むべきだと思った場面では無言に徹するのだ。

「ホクシアの知り合いにしては珍しいな。あそこまで人族に対して殺意を向けているの
は。俺たちとまともに会話をしようとも、目線を向けようともしなかった」

 サネシスも敵意を初対面ではもっていたが、アークが人族も魔族もどうでもいいという態度を示してからは、それが聊か緩和された。
 だが、ミルラはサネシス以上の敵意と憎悪を持っていた。奈落のように深く、誰もその理由を知ることが叶わないような程に暗い。

「ミルラは魔族の中でもとりわけ、人族に対する憎悪が深いからな。気分を害するか?」
「まさか。そんなことで気分を害すると思っているのか? 大体、サネシスだってそんな感じだっただろうが」
「それは否定しないけどな」
「まっ、俺は別にミルラだろうが、サネシスだろうが刃を持って動くのならば、刃を持って返すだけだ」

 割り切りが簡単すぎて、異様。そこまで簡単に割り切ることが出来ることが何人いることかと既に思うことが馬鹿らしいとホクシアは思うようになっていた。

「……シェーリオルには協力を仰いでみることにする。下手に意地を張っていても、魔術師に負けたら困るわ。そこで、認識の相違がないようにしたいわ。治癒術師の彼と、あの子を連れてきて」
「ん、わかった」

 別に連れてこなくても構わないと思ったが、同時に連れてくることもまた構わないのであった。
 だからこそ、リアトリスとヒースリアはその場に置いて、ハイリとカトレアを迎えにアークは一旦外に出る。サネシスも同行した。一人で人族が歩くことが危険なことをサネシスは充分に承知している――アークが、ではない。魔族が危険だということだ。刃を持ってくるのなら刃で返すだけだ、と答えるアークのことだ。魔族が襲いかかってくれば容赦なく反撃する。アークの実力を知っているからこそ、それは避けたかった。魔族に不用意な怪我や痛みは与えたくない。誰だって仲間に怪我をしてほしいと思うものはいない。


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