零の旋律 | ナノ

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「で、繰り返すが王族と手を組むなんて冗談じゃないぞ。始末屋」

 敵意むき出しの言葉に、アークはむしろ安心さえした。中途半端に敵意を隠されるよりもずっと心地は良い。

「王族ってもリーシェ王子は、ホストみたいだぞ?」

 その場に漂っていた緊張が一気に解けた。ホクシアは手で口元の笑みを隠している。
 一目、シェーリオルと出会ったことがあるものはその端正な容貌を知っているが故に、ホストという表現があまりにも適切過ぎたのだ。ある意味、王子として生まれてきたのが間違いではないかと疑いたくなるほどに。

「それは関係ないだろう」
「それに、ホクシアが求めていた魔石をリーシェは簡単に返したんだろ?」

 式典を襲った時、アークもまたその場にいた。だからこそシェーリオルが愛用の魔石をホクシアに返したことも知っているし、その後レインドフに眠っていた魔石を数個シェーリオルへ渡してもいる。

「なら、そこまでリーシェは敵愾心持っていないと思うが?」
「……それについては認めるわ。けど、彼の真価は魔導を扱ってこそ、魔法封じが発動された場面においてはあまり役に立つとは思えないわ。もっとも剣の腕も多少は立つから足手まといになることはないでしょうけど」
「背に腹はかえられないだろう」

 それでも王族、ということが魔族を渋らせているのだ。

「あとは……眼帯君はどうなんだ?」
「ラディカルは手を組むまではないわ。彼は半魔族なのだから」

 海賊を目指すラディカルは人族の姿をして生活をしているが、半魔族である彼は魔族の味方よりの立場である。

「私たちは元々人族との交流は狭いから、知り合いも少ないのよ。敵なら沢山いるでしょうけど」
「なら、人族と手を組む必要はないだろう。最も――お前らが人族と手を組むという判断を下した以上、私一人で反対を続けるつもりはないが」
「ミルラ……貴方は充分今も反対の態度を貫いているじゃない。まぁ私が押し切った以上、それを貫くのは構わないけれども、それで輪を乱すことは止めてよ」
「わかっている。だが、ホクシア。人族と手を組むということはいつだって裏切られる可能性があるということだ」
「知っているわ。とりあえず始末屋に関しては依頼さえ先手でしてしまえば問題ない」

 始末屋を真っ先に呼んだのは、他の誰か――例えば魔術師に依頼をされないうちに依頼をしてしまいたかったからだ。始末屋は基本的に一度で複数の依頼を受けることはしない。
 だからこそ、先に依頼をしてしまえば、後から相手が魔族の抹殺を依頼したところで始末屋は依頼を受けない。
 その保険をかけての依頼でもあった。味方にしてしまった方が心強い。敵になったら面倒だということはホクシアとサネシスが、ヴィオラがこの瞳で確認しているのだ。
 ミルラはそのことを知らない。
 ミルラは魔族の中でもさらに典型的な魔法師である。結界と水属性の魔法の扱いについては右出る者は存在しない。典型的な魔法師であることを除いても、ミルラを前線に出すわけにはいかなかった。長命な魔族の中でも、その外見とは裏腹にホクシアやサネシスとは比べ物にならないほど長い年月を生きており、ミルラと同じ時を生きている魔族は殆どいない。博学なミルラを失うことは魔族にとって避けたいことであり、何よりミルラは戦闘に出すわけにはいかない理由が確かにあった。


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