Z 「容赦しない分、情報屋としては優秀だしね」 「へー詐欺師は職が色々なようで」 アークの感心とも呆れともつかない言葉にヴィオラは苦笑いする。 「元、無音の殺し屋(サイレントキラー)として有名だった、貴方が何故、始末屋で執事としているかまでは判然としないところだけれども、貴方が強いとわかっているのなら依頼せずにはいれないわ」 何せ――慢性的な人手不足なのだ。何度か交流があり、且つ魔族をどうでもいいと思っている彼らだからこそ手を組むという発想をすることが出来た。 「……アークに従うさ」 嘆息してから、ヒースリアは諦めた。これ以上何を行っても意味はない。ならば、アークに任せるまでだった。何せ執事をしているヒースリアはすでに殺し屋ではないのだ。 「そう、なら話を進めるけど。私たちとしても人族と手を組むのは反対する魔族もいるけれど、現状そうもいっていられない」 「特にミルラは反対していたからなぁ」 その時の光景を思い出したのか、サネシスは疲れた顔をしていた。 アークにはミルラなる人物は知らないが、サネシスの表情から察するに余程人族を憎悪しているとみえた。 「ヴィオラの調査で魔術師たちは帝国と手を組んでいるの。魔法封じの装置も着々と完成形態に近づいているみたいだから、これ以上野放しにもしておけないわ」 「なら、リヴェルア王国と手も組んだらどうだ」 途端、苦虫を潰したような顔にホクシアはなる。 「私たちは……」 「お前らが、人族を嫌ってしいては国を嫌っているのは知っているが、現状帝国を相手にするなら、帝国に対抗できるのはリヴェルア王国だけだ。アルベルズ王国じゃ力不足は明らか過ぎる」 「……それはわかっているけれど、人族が私たちの申し出を受け入れるとは到底思えない。リヴェルアと帝国は勝手に争って共食いしてくれるでしょう?」 「お前らが望む共食いになるまでに、お前らの被害は甚大だと思うけどな」 「……それは……」 「……リヴェルア王国全体と手を組みたくないのなら、もう少し人族の協力者を手に入れた方がいいと俺は思うが? 俺たちじゃ国を相手取るにはいくらなんでも数が足りない。仮に俺たちやお前たちが一騎当千の働きが出来たとしても相手の数は千じゃ収まらないんだぞ? どうあったって不利だ。魔族を全滅させる覚悟があるというのなら、別だけどな」 アークの私情を持ちこまない冷静な判断にホクシアと他の魔族は黙るしかなかった。私情を交える場合ではないのはわかっているが、それでも私情をはさみたい気持ちを抑えることはできなかった。その結果、譲歩して始末屋へ依頼するという形を取ったのだ。それだけでは足りないことは実感している。その実感から目を逸らしたところで、訪れる結末は最悪なものになるだろうことは――わかっていた。 アークに指摘されるまでもない、だが、指摘されなければ傷のなめ合いをしていただけで終わっていただろう。 「信頼する必要なんてないんだ。目的を達成するために利用し合えばいい。リヴェルア王国全体と手を組みたくないにしても、シェーリオルとかに協力を要請すればいいだろう」 「王族と手を組むなんて御免だな」 声の主はサネシスの方からだが、サネシスの声ではない。サネシスはしくじったと顔を引き攣らせていた。その隣には扉を開けて入ってくる白髪の青年がいた。ロングマフラーにロングコートを着ており、全体的にゆったりとした服装だ。髪の毛は癖っ毛で、前髪は放置してあるからか、長く瞳の殆どが隠れているが、隙間から金の瞳であることは判断出来る。瞳の下には右側に三つ、左側に一つ、赤く輝く石が埋め込まれていた。 「――ミルラ、貴方はこの場に来ないんじゃなかったの?」 「気が変わっただけだ」 咎めるようなホクシアの言葉を、ミルラは気にも留めない。 [*前] | [次#] TOP |