零の旋律 | ナノ

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 中心部からさらに進むと、木材で立てられた家にたどり着く。周辺には木々が並ぶだけで他の建物は見当たらない。その家は他の家よりも数倍広い。
 中に入ると机が真ん中に置かれていて、床にはクッションが無数に置かれている以外は特に何もない場所だった。恐らくは集会所として使われているのだろう。
 そこで待っていたのは、数人の魔族と見知った顔が一人――ホクシアがいた。

「来たわね。アーク・レインドフ」
「あぁ、それよりもそろそろ目的を話してくれないか? いきなり全員で来いって言われて吃驚したんだが」

 未だ仕事の依頼を受けていないが故に仕事中毒は発動していない。

「わかっているわ、此方へ」

 机の前に促されたため、進んでいく。
 会話を聞かれないための措置なのか、サネシスが扉の前で腕を組んで立ち止まる。

「魔術師を討伐するための協力――依頼をしたいのよ」

 単刀直入にホクシアは告げる。ホクシアの周りにいた数人は渋い顔をした。それが望んだ選択ではないことは見て取れる。

「成程。猫の手でも借りたくなかった?」
「えぇ、そういうこと。猫というよりは虎の手ね」
「魔法が使えない可能性がある以上、魔族は圧倒的不利か」

 遠慮ない物言いに、魔族の一人が声を荒げて講義をしようとするが、それをホクシアが手で制する。

「話が早くて助かるわ。元々、魔族は魔法に特化した種族であるから武道派は少数。数の上でも不利なのに、さらに不利になる。魔法が使えるのに、態々武道を選ぶのも数少ないのよ。だから、私たちは会議に会議を重ねたうえで出した結論は、一部の人族と手を組むこと」
「それで、俺たちに白羽の矢が立ったってわけか」
「えぇ」
「それにしても俺たちの言葉に同意したってことは――ヒースリアを含めてか?」

 意地悪く微笑むその表情にホクシアは少しも気押されることなく頷いた。

「そうよ。サネシスから聞いたわ。狙撃の腕前を、戦力として数えたいのよ」
「ふーん。だそうだが?」

 ヒースリアの方をアークがみると、ヒースリアは露骨に嫌な顔をしていた。隠すことをしない表情に、ホクシアは流石に嫌悪感を示す。
 それでも他の魔族がいる手前、声に出すことはしなかった。

「そんなにも不満?」
「私は主の手下、ではありませんので」
「それでも、手を貸しなさい。元殺し屋」

 ホクシアの言葉に、ヒースリアの眼光が炯炯する。

「ほぉ、俺の正体わかったんだ」

 ヒースリアの口調の変貌とは関係なくサネシスが驚く。

「元殺し屋!? どこでそんな情報を!?」

 サネシスはヒースリアの素性を調べようとしたが、いくら調べても浮上することはなかった。それなのに、ホクシアが知っていたことが到底信じられなかった。

「ヴィオラに調べてもらったわ」
「あぁ、そういうこと」

 サネシスは額をはたく。ヴィオラの――レスの力があれば手っ取り早く情報が集まる。何よりヴィオラは外見上人族なのだ。人族の街へ行った所で珍しがられることはあっても怪しまれることはない。何よりヴィオラはその唯一目立つ髪型も、魔術で髪色を変化させているのだ。
 そのヴィオラにサネシスが頼らなかった理由は、自分の疑問を解消することに対してヴィオラを巻き込みたくなかった思いが強い――この青年は知らなくていいことを知ってしまうから。


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