零の旋律 | ナノ

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「あいつらへの治療費はタダだ。だから金銭の心配をする必要はない」
「どういうことだ?」
「リィハは基準があって治療費を要求する。自らの意思で戦う道を選んだものに対して、リィハは情けをかけない。戦うことを選んだものが怪我をするのは道理だ。だからこそ――リィハは高額な治療費をぶっかけるし、払うことを望まなければ、怪我人を放置する。だが、自ら戦うことを選ばなかったものが怪我をしたらそれは別だ。望まない道を選んだ上で、怪我をしたのならばそれは治してしかるべきだとリィハは考えている。だからこそ、戦わない者に対してリィハが治療費を要求することはない。あの魔族たちはどう考えたって戦うことを望んだわけではないのだろう?」

 人族に捕えられて、そこで酷使され傷ついた魔族に対するハイリの判断だ。魔法が使えるか使えないかは基準ではない。
 魔法を基準にすればそれこそ赤子だって魔族は魔法が使えるのだ。だからこそその基準に意味はない。

「リィハは、リィハの基準で治癒を施すのさ」

 アークはそう纏めた。
 体中に怪我をし、包帯から滲みでる血。一生治らないであろう深く傷ついた心を癒してあげることは治癒術師には出来ないが、身体の外傷は治してあげることが出来る。
 だらこそ、ハイリは率先して無言のまま治癒を開始したのだ。最初は怯えていた魔族も、ハイリの腕前と温かな治癒術に心を許したのか、次第に表情は安堵していっていた。怪我の痛みも、焼けつくような暑さも、薄らいでいく。

「そうなのか。成程な。だが正直有難い。此処では、そこまで治癒術に特化したものも少ないから正直――怪我人の手当てが遅れ気味なんだ。早く治してやりたくても、俺も治癒術は使えないし。サネシスも、な」
「……リィハはこのまま此処で治療を続けてもらっても構わないか?」

 サネシスの言葉にアークは頷く。
 だが、此処に放置しておくのは構わないが万が一襲われでもしたらハイリにはなすすべがないだろう。尤も、この状況を見て、我を忘れて襲ってくる魔族がいるとは思えなかった。

「カトレア! 少し手伝ってくれないか」

 ハイリは治癒術を行使しているが、治癒術が使えなくても手を貸してくれる人がいるだけで効率が良かった。カトレアは返事をしてからハイリの方へ小走りする。それをリアトリスは止めなかった。

「置いておくのは構わないですけどーもし魔族が襲ってきたら困りますですよ」

 ハイリ一人であれば、そのようなことを面と向かってリアトリスは言わなかったが、カトレアがいるならまた話は変わる。リアトリス自らが残らない道を選択したのは単純だ、そうした方がよいと直感が告げていたからだ。
 無遠慮な物言いにサネシスは苦笑する。

「大丈夫だ、ルキ!」

 サネシスが声をかけると何処からともなく魔族の少年が姿を現した。その少年にはアークも見覚えがあった。

「眼帯君を助けた魔族の少年か」
「ルキ、そこにいる人族に万が一にでも魔族が襲いかからないように守っていてくれ」
「わかったよ」

 少年らしい無邪気な笑みで、ルキはハイリとカトレアの手伝いをしに向かった。

「知らない魔族よりも都合がいいだろう?」
「そうだな」

 リアトリスとヒースリアはその魔族の少年を知らないが、アークが知っている魔族ならば構わないと思ったのだろう、リアトリスは何も言わなかった。


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